呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
「いきなり何を言うの。野良作業手伝わされて、侍女の仕事の範囲外でしょう」

 きっぱりと言ってやるが、彼女は噴き出すように笑い出す。

「確かに侍女の仕事じゃないですけど、ひとつも苦ではありませんから。王城に仕えていた時より断然、楽しいですし。身体を動かすのは大好きです」
「……貴女、本当に変わってるわね」

 呆れてベルティーナが半眼になって言うと、ハンナはクスクスと笑いを溢し、再び木々に視線を向けた。

「変わってるのはベルティーナ様も同じではないですか。毒花の王女ベラドンナ──そんな名で呼ばれた貴女です。初対面は、本当に怖そうな女の子だって印象が強すぎましたけど」

 それを聞いて、ベルティーナはすぐに眉を寄せた。

「ベラドンナ? どういう事」

 そんな話は初耳だ。ベルティーナは小首を傾げると、ハンナはハッとした面をして、慌てて両手を振るう。

「あ、余計な事を……そのすみません」
「構わないわ。その話、少し気になるから、話してみなさいよ?」

 彼女を見据えて()けば、いよいよ観念したのか……。ハンナは一つ吐息を溢した後、緩やかに薄い唇を開いた。

 ────人の愛の暖かさも知らぬ呪われた王女は、誰に対しても辛辣にするもので使用人たちにも恐れられた反面、哀れまれた存在でした。

 呪われた王女は美しい。ですが、その性質を(たと)えるのであれば、薔薇の茨などでは生ぬるく「毒」とさえ言われました。
 ましてや、名の綴りが毒花ベラドンナに似ている事から、いつからか使用人達には「美しき毒花の王女」と暗喩されるようになりました────

 ハンナは全てを言い切ると、消え入りそうな声で謝った。だが、ベルティーナはすぐに首を横に振るう。

「別に謝る事じゃないわ。とてつもなく光栄よ。ベラドンナは私が好きな花の一つだから」

 ──美しい花に限って棘や毒を持つ。好きな花に(たと)えられる事は嬉しい。と、素直に打ち明けると、ハンナは安堵したのか胸を撫で下ろした。

「確かに、毒と薬は紙一重と言いますからね。初対面のベルティーナ様は、確かにおっかなそうな印象がありますけど、単純に……聡く気高く美しいだけだと思います。口とは裏腹に心根は温かいもので……」

 ──そんな貴女にお仕え出来る運命、本当に幸せです。
< 50 / 164 >

この作品をシェア

pagetop