呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 笑みながら彼女が告げた途端だった。ハンナは大きく目を(みは)り、しゃがみ込むなり断末魔のような悲鳴を上げたのである。

「……ハンナ?」

 ベルティーナは彼女の唐突の変貌に息を飲む。

 いったい、この瞬間で何が起きたのか理解出来もしなかった。顔色だって悪くなかった。つい先程まで至って元気そうだったものだから……。

「しっかりなさいハンナ。どうしたの!」

 悶え苦しむハンナにベルティーナが近付こうとした途端だった。

「────いやあああああ! 熱い! 苦しい! ベル……ティナ、様ぁ助け……」

 助けて。と彼女が縋るようにベルティーナに手を伸ばした途端だった。
 彼女の皮膚から灰色の毛が吹き出すように生えたのである。

「え……?」

 呆然と立ち尽くすベルティーナの影。それと対面するハンナの影は次第に巨大なものへと変貌し、やがてハンナの呻きは、獣の咆哮に似た荒々しいものに変わり果てた。

「ハ……ハンナ……?」

 目を見開き、ベルティーナは背筋を震わせた。
 あまりの恐怖に、足は崩れ動く事を許さない。そんなベルティーナの前には、牙を剥き出し狂ったように吠える獣がいた。

 ──その獣は、彼女の頭髪と同じ灰金の毛に覆われた巨大なものだった。耳は大きくピンと立ち。尾は双子の侍女達に比べ幾分も太かった。その口は大きく、鋭い牙があり……本の中で見た犬や狼を連想させる姿だった。

 魔に墜ちたのだと分かる。しかし、そんな予兆なんてまったく無かったもので……。
 果たして彼女は何を満たしたのか……。
 それを思ったと同時、ベルティーナは彼女の発言が脳裏に巡る。

「お仕え出来る事、本当に幸せです」と、彼女は確かにそう言っただろう。

 恐らく存在意義の幸福。
 それが彼女の呪いの引き金だと……。即座に悟ったベルティーナは顔を青くして、彼女を見上げた。

「ハンナ、ハンナ……しっかりなさい……」

 その声に気付いたのだろう。ハンナだったものはベルティーナに牙を剥きゴゥと鳴く。
 何かを訴えているのだろうか。しかし、獣の咆哮にしか聞こえず微塵も言葉を理解出来ない。
 ベルティーナに目を(みは)るばかりだったが……。

「何事──!」

 途端にやや掠れた少女の声が響く。その声に視線を向けると、赤髪の少女と自分の婚約者、ミランの姿があった。

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