呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
そもそも、自分がいつ頃に部屋に戻ったかも覚えていないもので、柱時計に視線を向けると、針は午前二時を示していた。
「……もう大丈夫よ」
ベルティーナがリーヌに言うと、彼女はすぐに手を引っ込めた。
しかしながら、本当に綺麗な手だと思った。
その所作まで美しく、なぜに男装なんてしているのかと思えてしまうほど……。その視線に気づいたのか、リーヌは少しばかり居心地悪そうにベルティーナを一瞥した。
「まだ顔色が優れませんね……」
「あんな場面に出くわして、そんな話を聞けば当然よ……」
……それに、魔に墜ちることがあんな唐突で苦しみを伴うと思いもしなかったのだ。それも間近で目の当たりにしてしまったもので……。
ベルティーナはハンナの言葉を一つずつ思い出し、こめかみを揉んだ。
ハンナは魔に墜ちる寸前に「助けて」と、言っただろう。
──翳りの国に来て良かった。仕えることができて良かった、と、彼女は寝言のようなことを言っていたが……あんな苦しみを味わわせれば、そうさせた因果である自分を恨むだろうと、不穏がざわめいた。
しかし、自分だっていつかは魔に墜ちるもので……。
ああなることは不可避である。それに、この世界の夜に祝福されず理性が戻らなければ葬られるのだ。そう思うと、ベルティーナは途方もない不安を覚え、目頭を押さえた。
「きっと大丈夫です。必ず、ミランがどうにかします。あいつは不器用で口下手ですけど、強いです。それに、責任感が強くて心優しい奴です。それに彼女だって、ベル様のことを大事に思っていることでしょうから、きっと理性を取り戻します」
宥めるように優しく言われ、ベルティーナは無言のまま頷いた。
……しかし、今更ながらリーヌと二人きりは妙に気まずく、ベルティーナは思った。
そもそも、まともに会うのも二度目だ。
あの日は自己紹介のみで、会話をろくに交わさなかった。それで、いきなりこの距離感は近すぎるとベルティーナは思う。
思えば、今日……彼女はミランと一緒にやってきた。
ハンナのことにも気がかりだが、妙に彼とリーヌの関係性が気になってしまい、ベルティーナはため息をこぼした。
仕事も一緒かと疑問が浮かぶ。それに、恋人であったとしても、身分の高いミランを敬称もつけずに呼ぶことにもやはり違和感を覚えるものだった。
「……もう大丈夫よ」
ベルティーナがリーヌに言うと、彼女はすぐに手を引っ込めた。
しかしながら、本当に綺麗な手だと思った。
その所作まで美しく、なぜに男装なんてしているのかと思えてしまうほど……。その視線に気づいたのか、リーヌは少しばかり居心地悪そうにベルティーナを一瞥した。
「まだ顔色が優れませんね……」
「あんな場面に出くわして、そんな話を聞けば当然よ……」
……それに、魔に墜ちることがあんな唐突で苦しみを伴うと思いもしなかったのだ。それも間近で目の当たりにしてしまったもので……。
ベルティーナはハンナの言葉を一つずつ思い出し、こめかみを揉んだ。
ハンナは魔に墜ちる寸前に「助けて」と、言っただろう。
──翳りの国に来て良かった。仕えることができて良かった、と、彼女は寝言のようなことを言っていたが……あんな苦しみを味わわせれば、そうさせた因果である自分を恨むだろうと、不穏がざわめいた。
しかし、自分だっていつかは魔に墜ちるもので……。
ああなることは不可避である。それに、この世界の夜に祝福されず理性が戻らなければ葬られるのだ。そう思うと、ベルティーナは途方もない不安を覚え、目頭を押さえた。
「きっと大丈夫です。必ず、ミランがどうにかします。あいつは不器用で口下手ですけど、強いです。それに、責任感が強くて心優しい奴です。それに彼女だって、ベル様のことを大事に思っていることでしょうから、きっと理性を取り戻します」
宥めるように優しく言われ、ベルティーナは無言のまま頷いた。
……しかし、今更ながらリーヌと二人きりは妙に気まずく、ベルティーナは思った。
そもそも、まともに会うのも二度目だ。
あの日は自己紹介のみで、会話をろくに交わさなかった。それで、いきなりこの距離感は近すぎるとベルティーナは思う。
思えば、今日……彼女はミランと一緒にやってきた。
ハンナのことにも気がかりだが、妙に彼とリーヌの関係性が気になってしまい、ベルティーナはため息をこぼした。
仕事も一緒かと疑問が浮かぶ。それに、恋人であったとしても、身分の高いミランを敬称もつけずに呼ぶことにもやはり違和感を覚えるものだった。