呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
「リーヌ。ところで貴女……ミラン王子とはどのようなご関係?」

 思ったままをベルティーナがぽつりと漏らすと、彼女はすぐに首を傾げた。

「生まれたときからの幼馴染ですよ? 立場的には主と近侍(きんじ)ですが」

 彼女は極めて平坦な調子であっさりと告げた。
 しかし、その関係性を聞くと、確かに近しい存在とよく分かる。

 近侍(きんじ)は侍女と同じだ。主に主の身の回りの世話をこなす男性を示す。だが、なぜに彼女は「侍女」と言わず「近侍(きんじ)」と答えたのだろうと疑問が浮かぶ。

 ──ドレスを纏わず、男性の履く下衣を着用している姿は、初対面のときから異質に思っていた。だが、脚を出したくないなり何かしら事情があるのだろうとも窺える。あるいは……身体が女であっても、心は男であるとも……。

 彼女が男性の使う一人称を使うことや、紳士的な立ち振る舞いをする様子から、この節は濃厚にも思える。だが、それで恋人だとすれば、なおさら関係が複雑だ。考えれば考えるほどに胸が妙に疼くもので、ベルティーナはこめかみを押さえつつ一つため息をついた。

「そう……本当に仲が睦まじそうに思うから聞いたのよ」
「僕の母はこの城の使用人です。主に調理場を取り仕切っています。なので、本当に子どもの頃からの腐れ縁みたいなもので……」

 ──とは言え、僕の方が彼より少しだけ年下で、なんて付け加えて、彼女は気の抜けた笑みをこぼした途端に叩扉《こうひ》が響いた。

 ベルティーナはすぐに立とうとしたが、リーヌは丁寧な所作でそれを遮った。

「僕が出ます」

 気遣ってくれているのだろう。それは分かるが、自分の部屋だ。ベルティーナは先に立ったリーヌの後をついて扉に向かった。
 そうして彼女が扉を開いた途端、むせ返るほどの血の臭いが漂った。
 その臭いを発する正体……それを見て、ベルティーナの思考は止まった。

 そこにはミランがいた。まるで濡れたカラスのよう。真っ黒な装いはべったりと血で汚れており、彼の顔や手には赤黒い血液が付着していたのだ。
 それが自分の血か返り血かは分からない。しかし、それだけで激闘を物語るもので、顔を青ざめたベルティーナは手で口を覆った。

「ミラン……その血はまさか」

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