呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
リーヌは震えた声で言う。それだけで嫌な予感がした。なにしろ、ミランは戻ってきたものの、ハンナはいないのだから。
再び指先まで凍えるように冷える感触がして、ベルティーナはたちまち背を震わせた。しかし、ミランは「何が?」とでも言わんばかりに、不思議そうに首を傾げるもので──
「……これ、俺の血。安心しろよ」
そう言うなり、部屋に踏み入り、ベルティーナに近づいた。
「ベルの連れてきた侍女は、使用人たちの部屋に運んどいた。今、双子の猫や他の使用人たちが見ている。もう大丈夫。そのうち目を覚ますとは思う」
「……そうなのね。よかった」
……ハンナが無事。それを知って、ベルティーナは胸を撫で下ろしたが、気の抜けたあまり身体の力が抜けそうになってしまう。ベルティーナがふらりとよろめけば、ミランに背を支えられた。
「無理はするな、ベルもちゃんと休め」
優しく言われ、ベルティーナは素直に礼を言う──その途端だった。
「それでミラン。その怪我は……随分と苦戦したのか? それとベル様に血が付着する。離れた方がいい」
リーヌが少しばかり辛辣に言うと、ミランはすっとベルティーナに触れていた手を離した。
「ああ、これな。相手は元人間の雌だし、俺まで本来の姿で対峙するのはどうかと思ったから。後天性とは言え、狼相手にナメたことしたかもだけど……その。それで、すげぇ噛みつかれただけで……」
──結構痛い、と、ばつが悪そうに言うと、ミランは再びベルティーナを一瞥した。
「……と、そういうわけだ。俺はもう部屋に戻る。侍女の件は大丈夫。ベルも安心してもうゆっくり休んでくれ。双子の猫、呼んでおくか?」
「いいえ。休むにしたって、入浴を済ませてからよ。先に湯船に湯も張ってくれているし困らないわ……それより」
こうも血をだらだらと流す相手を目の前にすると、そちらの方に気が向いてしまう。
ベルティーナはふらつく足で、急ぎ奥に設置された棚へ向かった。
──消毒液と傷薬くらいは持ってきていたはず。
それらを慌てて探し、持ち出して戻ると、彼はきょとんとした顔でベルティーナを見下ろした。
「……ベル、それ何?」
「消毒液と傷薬よ。処置するわ」
そっけなく告げると、彼は目を細めて、ベルティーナが両手に持つ薬品を交互に見た。
再び指先まで凍えるように冷える感触がして、ベルティーナはたちまち背を震わせた。しかし、ミランは「何が?」とでも言わんばかりに、不思議そうに首を傾げるもので──
「……これ、俺の血。安心しろよ」
そう言うなり、部屋に踏み入り、ベルティーナに近づいた。
「ベルの連れてきた侍女は、使用人たちの部屋に運んどいた。今、双子の猫や他の使用人たちが見ている。もう大丈夫。そのうち目を覚ますとは思う」
「……そうなのね。よかった」
……ハンナが無事。それを知って、ベルティーナは胸を撫で下ろしたが、気の抜けたあまり身体の力が抜けそうになってしまう。ベルティーナがふらりとよろめけば、ミランに背を支えられた。
「無理はするな、ベルもちゃんと休め」
優しく言われ、ベルティーナは素直に礼を言う──その途端だった。
「それでミラン。その怪我は……随分と苦戦したのか? それとベル様に血が付着する。離れた方がいい」
リーヌが少しばかり辛辣に言うと、ミランはすっとベルティーナに触れていた手を離した。
「ああ、これな。相手は元人間の雌だし、俺まで本来の姿で対峙するのはどうかと思ったから。後天性とは言え、狼相手にナメたことしたかもだけど……その。それで、すげぇ噛みつかれただけで……」
──結構痛い、と、ばつが悪そうに言うと、ミランは再びベルティーナを一瞥した。
「……と、そういうわけだ。俺はもう部屋に戻る。侍女の件は大丈夫。ベルも安心してもうゆっくり休んでくれ。双子の猫、呼んでおくか?」
「いいえ。休むにしたって、入浴を済ませてからよ。先に湯船に湯も張ってくれているし困らないわ……それより」
こうも血をだらだらと流す相手を目の前にすると、そちらの方に気が向いてしまう。
ベルティーナはふらつく足で、急ぎ奥に設置された棚へ向かった。
──消毒液と傷薬くらいは持ってきていたはず。
それらを慌てて探し、持ち出して戻ると、彼はきょとんとした顔でベルティーナを見下ろした。
「……ベル、それ何?」
「消毒液と傷薬よ。処置するわ」
そっけなく告げると、彼は目を細めて、ベルティーナが両手に持つ薬品を交互に見た。