呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第14話 紋様の疼きが囁く不安

 ハンナが目を覚ましてから三日……ミランは変わらず、部屋を訪れることはなかった。
 しかし、彼が部屋に来たからと言って何か話すわけでもない。
 そもそも「もう構うな」と言ったのは自分だ。ベルティーナからすれば、困ったことなど何一つなかった。

 一方、ハンナと言えば、経過は良好で、早くも昨日から侍女の仕事に戻っている。
「全快ではないだろうに、もう少し休んでいればいい」と言ったが……以前よりも調子がいいとのこと。そんなハンナと今、ベルティーナは畑作業を手伝っていた。

「ベルティーナ様ー! こんな具合でよろしいですか?」

 溌剌としたハンナの声に、ベルティーナは作業する手を止め、顔を上げた。少し離れた先、ハンナがひらひらと手を振っていた。

 先日の件で少し花壇が荒れてしまった。
 だから今日、その手直しをしていたのだが……喜ばしいことに、ベルティーナの花壇作りがあまりにも本格的なことから、もっと自由に使って存分に楽しめばいいと、翳の女王が直々に言ってきたのである。

 そのために新たな花壇作りにハンナが励んでいたものだが……本当に仕事が早いものだと、ベルティーナは感心してしまった。

「仕事が早いわね。貴女、本当に無理してなくて?」

 つい先日まで寝込んでいたばかりだ。少しばかり心配になってハンナに()くと、彼女はすぐに首を振るう。

「むしろ絶好調ですよ! 力が有り余っているほどで……!」

 そう言って、彼女はまたぶんぶんと尾を振った。

 ……犬や狼の生態は本の中でしか知らないが、彼らは嬉しいと尾を振るらしい。そんな知識がベルティーナにもあるが、明るい面持ちや目を輝かせている様子を見るからに、あながち間違いではないように思う。

 しかし……双子の侍女もモフモフとして触り心地が良さそうなものだが、ハンナも負けず劣らず。いや、モフモフ加減だけで言えば、ハンナの方が強いだろう。
 ピコピコと動く大きな耳や、ふわふわと背後に揺れる尻尾を見つめながら、ベルティーナは生唾を飲みつつ、自然と指先を動かした。

「どうしたのです? 何か、私の耳についてます?」

 不思議そうに言われて、ベルティーナはすぐにぶんぶんと首を振るう。

「別に何でもないわ。ただその……」
「どうしたのです?」
「……そのふわふわな尻尾とか耳、ちょっと触ってみたいって思っただけよ」

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