呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 恥じらいながら心の内を告げると、ハンナは目を丸くした。

「や……嫌なら別にいいのよ!」

 ──どうしてもってわけじゃないわ! と、そっぽを向いて言うと、彼女はくすくすと笑みをこぼしたが……。

「そう言うのなら、いくらでも」と、優しく言って彼女はベルティーナの手を取り、(かしず)いた。

 そうして、背の高い彼女は頭を下げ、ベルティーナの手をピンと立った耳に宛がった。

「…………!」

 その感触に、ベルティーナは目を丸くした。
 それはまるで上質な絹のよう。滑らかな毛質で、想像以上に柔らかかったのだ。
 それはもういくらでも触っていられそうなほどで……。

「自分で言うのもなんですけど……結構触り心地だけはいいって思いますね」

(ふわふわ! もこもこ! さ……最高じゃない!)

 心の中で思うが、思わず顔にも出てしまいそうになる。
 自分の唇がひどく緩んだことを自覚して、ベルティーナは一つ咳払いをすると、彼女の耳から手を離した。

「……あ、ありがとう。最高の触り心地ね」

 そう言って、また一つ咳払いをすると、ハンナはくすくすと笑みをこぼした。

「ベルティーナ様のそこまで嬉しそうなお顔、私初めて見たかもしれません。またいつでも言ってくださいませ。耳を触りたいなどお安いご用ですし」
「──い、いつでも、ですって!」

 言われた言葉を復唱して、ベルティーナはぱくぱくと唇を動かした。
 
 しかし、自分でもなんという反応をしてしまったのだろう……と、自覚するのはすぐだった。ベルティーナは顔を真っ赤にして俯く。
 確かに、ふわふわしていて気持ちがいい。それに、なんだか心が綻び癒される気がする。それをいつでも触っていいと……夢のような話ではあるが、他人の身体の一部だ。
 自分が触れられるのを異常なほど嫌う癖に、なんとも矛盾しているだろうとは思う。

「別に女同士ですし……減るものでもないですし」

 そう言ってハンナは微笑むが、ベルティーナは額を押さえて首を振った。

「だめよ。そんなモフモフ日常的に触ってたら……きっと私はダメになるわ」
「大袈裟ですよ。それで息抜きになって、ベルティーナ様の機嫌が良くなるなら、私は一向に構いませんけど。というか……ベルティーナ様、年相応の女の子みたいに可愛らしい部分がちゃんとあるんだって分かって、逆に安心しました」

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