呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 ハンナがそう言って微笑むので、ベルティーナは半眼になってしまう。
 
「……失礼ね。聡くあることが言いつけだから、それを大優先して従っているだけよ。私だって……若い娘が好むような恋愛物語だって読むし、綺麗なドレスも甘いお菓子も好きよ」

 ──まったく似合っていないでしょうけどね。と、一つ鼻を鳴らして言うと、彼女は噴き出すように笑みをこぼした。

 そんな和やかなやりとりをしている最中だった。
 双子の猫侍女たちの愛らしい声が聞こえてきた。声を探すと、東屋に双子の侍女の姿があった。彼女たちは手を振り、「休憩にしましょう!」と呼んでいる。

 その背後に聳える見張り塔(ベルグフリート)──ふとそれを一瞥して、ベルティーナは一つため息をこぼした。

 庭園に来るたびに思っていたが、蔦の絡みついた頑強そうな塔は、どこか自分の住んでいたヴェルメブルク城の塔にもよく似ている。
 なお、こちらもそれなりの年季を窺えるもので……。

「ねえ、ハンナ。あの塔って私が住んでいた塔に似てるわよね……色は違うけれど」

 突然話を振ったことに驚いたのだろう。ハンナはぴょんと耳を動かしてベルティーナの方を向いた。

「ええ、まあ確かに。庭園にあることもそうですが、蔦が絡みついてますからね。でもあの塔、使われていない調度品をしまっておく倉庫として使われているそうですよ?」

 同じようなことを思っていたから、使用人の長に聞いたなんて付け加えて、ハンナはくすくすと笑んだ。

「そうなの……」

 ……しかし、本当によく似ている。そう思いつつ、ベルティーナはゆったりと東屋に向かって歩み始めた。

 小高い丘の上に佇む東屋に着くと、すぐに双子の片割れが椅子を引き、そこに座るよう促した。彼女たちと関わることにはだいぶ慣れたものの、やはりこのような丁重な扱いにはまだ慣れない。

「貴女たち、それが仕事でしょうけど……人が見ていない場所なら、馬鹿丁寧な扱いなんてしなくて結構よ、慣れないのよ」

 ──好きなように振る舞ってちょうだい。
 いよいよはっきりと告げると、双子は少し困ったような顔をした。

「そう言ってもらえるのって、とっても嬉しいんですけどねぇ……それが癖になっちゃうと、人前でもそうしちゃいそうで、イーリス、ちょっと怖いって思うんです」
「ロートスもイーリスと同じ意見です」

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