呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
「……そう、分かったわ。でも肝心な部分を聞き忘れたけど、私はまだ人間よ。この国の人たちが城に人間が来ていることは知っていて?」

 森を焼いただの、人に対して恨みがある人だっているでしょうに……。と、そんな疑問を続けざまに()くと、彼女たちは顔を見合わせた後に首を振る。

「平気ですよ。城下のみんなも〝いずれ同胞となるお姫様〟が来ていることは知っていると思います。それに、王城じゃみなさん、ベル様が来たことを歓迎していたじゃないですか?」
「それに、ベル様って事実、人の匂いがしますけど……魔性の者の匂いも少し混ざってます。だから、多分同族判定されると思いますよ? それに今のベル様、私たちと同じお仕着せじゃないですか。人の国のお姫様には見えないと思いますよ?」

 そう言われて、ベルティーナは納得した。
 思えば確かに、王城で邪険な態度を取る人など一人もいなかった。あれこれと考えすぎだろうか……そう思い直し、ベルティーナはもう余計なことを考えるのをやめた。

 ──香ばしく肉の焼ける匂いに、蜂蜜のような甘い匂い。それから、ハーブの匂い……と、城下の市場には様々な匂いが入り交じっていた。
 それにものすごい人通りだ。
 辿り着いた市場は想像以上に道幅が広く、通路にも多くの魔性の者たちが行き交い活気に満ちていた。

 角の生えた者、翅の生えた者、獣の耳が生えた者、鱗を持つ者……と、多種多様。城では見たこともない容姿の者たちもいくらか歩んでいた。

 それも、翅の生えた小さな妖精まで飛び交っているもので……ベルティーナは物珍しく思えて目で追ってしまった。

 つい数日前まで、一人きりの生活だった。こんなに大勢の人が……いや、魔性の者たちが溢れかえるほど歩いているのを見るのだって初めてで、街の賑やかさにベルティーナは何度も目をしばたたいた。

「じゃあ、さっそく苗屋に行きましょう!」

 はぐれないように、と双子の片割れに手を繋がれ、ベルティーナは雑踏の中に歩み出した。

 やはり双子の言う通り、誰もがベルティーナのことを特に気に留めない様子だった。
 稀に人だと気づいたのか、立ち止まり彼女を見る者もいるが、それは決まって獣のような特徴を持つ者たちだけ。それでも邪険な雰囲気は感じられないことから安全だと分かる。

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