呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 そうして、雑踏を歩むことしばらく。双子の言う苗屋に辿り着いた。

 軒先にはハーブの苗がたくさん並んでいるほか、カボチャや人参など野菜の苗まである。そもそも〝店〟に来たこと自体が初めてだが、品揃えがいいだろうとは思った。それも、ヴェルメブルク城の庭園で見たこともないハーブがたくさん並んでいるのだ。

 そうして吟味することしばらく。抗炎症作用のあるエキナセア、鼻風邪に効くエルダーフラワー、消化機能を高めるフェンネル……と、めぼしい苗をいくらか買い込んで、三人は王城へと(きびす)を返した矢先だった。

「そうだ、ベル様! せっかく外に出たんですから、もう少し寄り道しませんか?」

 途端に双子の片割れが切り出したことに、ベルティーナは眉をひそめた。

「王城でハンナが待ってるわ。それに私、そんなに出歩いて本当にいいの?」
「大丈夫ですよ! ハンナはベル様よりもっとお姉さんですよね?」

 幼い言い方ではあるが、年上と言いたいのだろう。本人から詳しい年齢さえ聞いていないが、明らかにそうだろうと思う。
 それに頷くと、二人は「ですよねぇー」なんて声を揃えた後ににこにこと笑んだ。

「ハンナはベル様よりお姉さん。だから十三歳の私たちよりも、もっとずっとお姉さんですもん、大丈夫ですよ。それにベル様、人の世界じゃ今までずっと庭に閉じ込められてきたってハンナから聞いてます。そんなの可哀想だもの……侍女としてはこっちの世界ではもっと綺麗な景色とかお外を見せたいもの!」

 目を爛々と輝かせたもう片割れに腕を引っ張られて、ベルティーナは額を押さえた。

 ──しかし、本当にいいのだろうか。
 だが、ここまで気遣われるならば、応えた方がいい気がしてきた。ベルティーナはしばし考えた後、頷いた。

 ***

 その後、ベルティーナは双子の猫侍女とナハトベルグ城下の市場を散策していた。

 冬でもないのにグリューワインの屋台。それから聖者を崇める日でもないのに菓子屋ではシュトーレンが売られていて……色々不思議な点がある。
 そして、酒場でいい気分で酔いしれる男たちが飲むものは麦酒やワイン。それから腸詰め肉やラビオリを食べるなど、伝え聞いたヴェルメブルクの酒場と変わらぬ光景が広がっていた。

「ここは裏にある異界とは言うけど……食べ物はまったく同じね」

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