呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 さっきからこの男は面白い面白いと言うが、ベルティーナは不快で仕方なかった。早くこの状況を脱したくてたまらない。

 誰かこの酔っ払いを止めてほしいとは思うが……周囲を見れば、あんなにあった人の群れがすっかりと薄いものになっていた。それどころか、皆こちらを見ないように足早に去っていくのである。

 困っているのに助けもしない。誰も視線も合わせようともしない。どうすればいいものか……ベルティーナは困窮して眉を寄せた。

「さぁて人間の姫様よ。どうするんだぁ? その雌猫どもは城の使用人だろ? この二匹かあんた一人が俺らについて来いって言ったらどっちを選ぶ」
「どっちも嫌よ。貴方、本当に馬鹿じゃないの」

 きっぱりと告げるや否や──捕まれていた腕の力がさらに強まった。それはもう腕の骨が砕けそうなほどに。
 激痛にベルティーナが歯を食いしばると、男は顔を真っ赤にしてたちまち激昂した。

「口の利き方がなってないな。どうするんだ? 早く選べ!」

 凄みを含んだ声色で言われるが、ベルティーナは怯むこともなく、イノシシ牙の男を睨みつける。

「私が行くわ……」

 ──だから、この子を許しなさい。
 震え上がるロートスに視線をやって言うと、ようやく腕を締め付ける力は弱まり、男は頷いた。

「え~勿体ねぇよ親方。この雌猫どもガキとはいえ、かなり可愛いじゃねーですか。連れてきやしょーぜ」

 外野の男たちがぶーぶーと文句を垂れ、たちまちイーリスとロートスを捕縛した。

「ああ、そうだなー確かに言われてみりゃそうだ。雌は多い方が〝よりどりみどり〟》楽しめるからなぁ」
「ちょっと、話が違うじゃない!」

 ベルティーナはたちまち目を吊り上げて憤激した。だが、イノシシ牙の男は微塵も怯むことなく、卑しい視線でベルティーナたちを見据えた。

「人間は知らねぇのか? 魔性の者ってもんはよぉ……ずる賢いくねぇとやってられねぇもんなんだよ?」

 ヒックと酒臭いしゃっくりを吹き付け、イノシシ牙の男は品性の欠けた笑みを浮かべた。

 ***

 すっかり閑散としてしまった街を抜け、連れてこられた先は鬱蒼と茂る森だった。
 その奥地。苔むした納屋の中、干し草の上でベルティーナたちは腕を麻縄で拘束されていた。

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