呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 思えば触れられるなど初めてだろう。驚いて思わず彼を見ると、ミランは「嫌か?」と聞いた。その顔が少しばかり居心地が悪そうではあるが、目の縁がほんのり赤らんでいて……。

「別に嫌じゃないわ……だけど少しびっくりしたの……」

 素直にそう告げると、「そっか」なんて彼はまたも素っ気なく言うが、髪を撫でるのを止めなかった。

 それからしばらく沈黙が続き──

「ねえ……今さらだけど、貴方に一つ聞いてもいい?」

 ベルティーナは思い切って、ずっと気になっていたことを聞こうと、彼の方を向いた。
 突然話を振られたことに驚いたのだろうか。今度はミランが背を震わせ、やや緊張した面持ちでこちらを見る。

「その……私って、そんなに……臭いのかしら……?」

 あのイノシシ男、イーヴォに言われたことだ。これが、どうにも胸に引っかかっていた。これまで誰にも言われていないが、もしかしたら皆気を遣って黙っていただけ。本当は彼だって言葉を失うほどに、自分の発する臭いに悩まされている可能性も無きにしも非ず……。恥ずかしいが、聞かねばと思った。

 だが案の定、ミランは黙り込んでしまった。

「ねえ、お願い。もう素直に言ってちょうだい」

 きっぱりと言えば、彼は少しだけ渋ったような表情を見せ、眉間を揉んだ。

「あ……ああ。まあ結構……」

 それだけ言うと、彼は口元を押さえて俯いてしまった。

 本当にそれほどまでに臭いのか……。もはや致命的じゃないか。
 そう思えて、ベルティーナは肩を落とした。けれど、こうもはっきり嫌だと分かれば、もうかえって何も怖くない気さえしてきた。
 意を決したベルティーナは、真っ直ぐにミランと向き合う。

「ねえ。この際だからもう、はっきりと聞くわ。貴方、リーヌが本当の恋人よね? 愛してるのよね?」

 触れてはいけないようなことだと思う。しかし、それを躊躇いもなくベルティーナが言うと、彼はたちまち鳩が豆鉄砲でも食らったかのような面持ちを浮かべた。

 ……かと思えば、すぐに唇をへの字に引き攣らせた。恐らく、それだけで図星なのだろうとは思った。しかし……。

「……はぁ?」

 予想だにしない彼の反応に、ベルティーナはぱちぱちと目をしばたたいた。

< 83 / 164 >

この作品をシェア

pagetop