呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
「……え。だって、お揃いの指輪じゃない。それに同種族でしょう。とても仲が睦まじくてお似合いだわ。私、自分で臭いなんて分からないけれど……その臭いが嫌で耐えられないなら、婚約は破棄にしたって構わない。だけど条件があって……ハンナだけは」

 ──どうか彼女だけはこの城に留まり仕事をさせてあげてほしい。そう言うや否や、ミランはこめかみを揉んで、険しく眉を寄せた。

「おい。ちょっと待て、ベル。何か、ものすごい勘違いしてないか」
「勘違いって何よ?」

 ──お揃いの指輪までして、どこからどう見たって、素敵な恋人同士にしか見えないわよ。
 続けざまに思ったままをきっぱりと言うと、彼は眉間に寄せた皺をさらに深めた。

「おい、ベル、嘘だろ? 分からなかったのか? リーヌは雄だぞ……」

 唇を引き攣らせたままミランが言う。
 しかし、その言葉にベルティーナの思考は停止した。

「……はい?」

 もはや、素っ頓狂な声しか出ない。いや、思考停止のまま動かない。ベルティーナが何度も(まばた)きすると、ミランは引き攣った笑みをこぼした。

「あのな。あいつの本名はヴァルナリーヌ。〝ヴァルナ〟って顔してないから子どもの頃からそう呼んでる。まあ確かに雌みたいな顔だし背は低いし、声は高いし。それでも、俺は同性をそういう対象には見たことねえけど」

 ──と、いうか……匂い嗅げば男だって分かるだろ?
 なんて続けざまに言われるが、ベルティーナはすぐにぶんぶんと首を振った。

「そんなの、分かるはずがないじゃない! じゃあ……どうして貴方は怪我の処置のとき、リーヌを引き合いに出して私を拒むようなことを言ったのよ!」

 衝撃の事実に頭も追いつかないが、ならば今までの拒みは何だったのかと思う。

 初めてリーヌに会ったときだってそうだ。(かしず)くリーヌに「それをやるな」と悲しそうな顔をしたこともあるだろう。それにあのとき、リーヌだって複雑な顔をしていた。
 だが、掘り起こせばそのほかにもいくらでも疑惑はたくさん沸いて出てくる。次から次へと止まることなく言うと、ミランはやれやれと首を振った。

< 84 / 164 >

この作品をシェア

pagetop