呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
「ベルのせいにするのは良くないけど……ベルって、いつも本当にすごく良い匂いがする。だから俺も気恥ずかしくなってそっけなくしか話せないんだ……。それにな、抑制の指輪をしてるとは言っても抑えられるのは魔力だけ。本能的な部分は抑制されない。つまりは」

 ……負傷したときは生殖本能が異常なほど高まるから、触られたら、近くにいれば押し倒しそうだ、と気まずそうにミランはこぼした。

 しかし、この言葉で何もかも完全に自分の勘違いだと悟った。

 臭い……つまり、単純に臭いというわけではなく、雄の本能を触発するものだったと分かり、ベルティーナはたちまち頬を赤らめた。

 しかし、ああも臭いと言われたらそうとしか考えることができなかったもので……。
 ましてや、ミランがそっけなかったのもそのせいだったのだと知り、ベルティーナはなんとも言えない気持ちに追いやられた。

「そのさ。人間の世界じゃ一般的に、婚前に〝そういうこと〟をしたら汚らわしいんだろ? 感性が違うことくらい俺も勉強してるから知ってるんだ。だから、そこだけはベルに合わせて守りたいと思ってるだけで……。俺、ベルに嫌われたくねえし」
「そう、なのね……」

 もはや何と答えてよいかも分からない。ベルティーナは呆然としたままミランを射貫くが……彼は途端に頬を赤々と染め、唇をまごまごと動かした。

「……だ、だからそんな顔でじっと見るな! その、これだけはずっと言いたかったんだが、雄と雌が二人きりのときに相手をじっと見つめるのって……俺たちじゃ〝求愛〟って認識なんだよ。匂いもそうだが、この前のハンナの件のときもリーヌだって頭クラクラしたって言ってたぞ……。この辺りは人間と認識が違うのは分かっちゃいるけど……」

 ──本気で勘違いしそうになる。何だか、嬉しくなるからダメだ……。
 なんてばつが悪そうに付け添えて、ミランは紅潮したまま俯いた。

 そう。これまで、何から何まで自分の勘違い。
 それが分かるが、複雑な事情や彼らなりの風習なども絡み合っていたなんて知るよしもなかった……。ベルティーナも額を押さえてため息をこぼす。だが、心の底で、ほっとしている自分がいる。

「そう。貴方に特別嫌われていないと分かっただけ、ほんの少し安心したわ……」

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