呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
Chapter3

第19話 夜景に浮かぶ退屈の翳り

 ベルティーナは発光球体が織りなす幻想的な夜景を東屋でぼんやりと眺めていた。

 夕刻から数時間。こうして毎日のように庭園に出て作業をしているわけだが……毎日丁寧に手入れしていれば、さほど雑草も生えない。それに、苗を植えてまだひと月も経っていないのだから、特に代わり映えもない。

 まず、栽培するハーブをお茶や薬にするにしても、もう少し苗が成長しなければ意味がない。だから、あとは育つのをひたすら待つだけではあるが……。

(また退屈になってきたわね……)

 心の中でぽつりと独りごちつつ、ベルティーナはテーブルのカップをつまんで紅茶を一口飲んだ。

「ベルティーナ様、なんだか浮かないお顔をされていますね。どうされたのです?」

 少しばかり心配そうに聞かれ、真正面を向くと、狼の大きな耳をくたりと下げたハンナが浮かぬ面持ちで見つめていた。

「大したことではないわ。収穫だってまだできそうにない。これといってやることがないから、次の退屈しのぎを考えていただけよ」
「確かにそうですねぇ。こんなにお手入れしているので、お庭も綺麗ですし」

 そう言ってハンナは庭園を眺望する。だが、すぐに何かを思い出したようで、彼女はぱちりと手を合わせて、再びベルティーナに向き合った。

「そうですよ。ベルティーナ様って読書好きですよね? 本が好きであれば、城の地下にある図書室に行くのもいいかもしれませんよ?」
「図書室があるの?」

 それは初耳だ。そもそも城に地下があったことだって初耳で。ベルティーナが少し興味を持って()くと、ハンナは頷いた。

「ええ、私も使用人たちから聞いただけですけど。リーヌ様ってなかなかの読書家だそうで、暇があれば図書室によく行っているとか……そんな話を聞きました」

 ハンナは柔らかく笑むが、その名を聞いてベルティーナは少しばかり居心地悪そうに眉根を寄せた。

 自分はつい最近まで、彼を女性だと思い込んでいた。それも……ミランの恋人だと。
 その勘違いをミランはきっと本人に言わないだろうと思っていたものの……あまりに面白かったのか。彼はリーヌ本人に言ってしまったのである。

 その結果、拉致騒動の翌日、リーヌはベルティーナの部屋にミランを引きずって訪れていたのであった。

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