呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 ──酷いですベル様! 僕を雌だと思い込んでいただなんて! この逞しい角! どこからどう見たって雄じゃないですか!

 確か、そんな風に捲し立てられたのだろう。ミランと言えば、その背後でぷるぷると震えながら笑いを堪えるのに必死そうで……。
 そんなこんなで、自分が勘違いしていたミランとリーヌの禁断愛の話は城中に広まってしまい、ベルティーナは赤っ恥をかくことになった。

 しかし、なぜいちいち当人に言ったのか……。
 それを明け方に訪れたミランに憤慨して問い詰めたところ、あまりにその勘違いが可愛らしかったからと言われてしまった。それに、自分たちの関係性の潔白を証明できるからと……。

 しかし、雄同士で幼馴染という間柄にしては、いくらなんでも仲が良すぎるように今でも思う。それもお揃いの指輪までして……あの態度だ。勘違いして当然、と一連を思い出してしまったベルティーナは一つため息をつき、目を細めた。

「確かにリーヌ様って男性には見えませんよねぇ」

 浮かぬベルティーナの心中を察したのか、ハンナは吐息と共にこぼした。

「いちいち掘り起こさないでちょうだい……」

 恨めしげに睨むと、ハンナは慌てた様子で顔の前で手を振った。

「え、ええ……でも私だって魔に墜ちる前までは〝臭い〟で判別なんてできませんでしたし、リーヌ様のことは男装令嬢とばかり思っていましたもの! 呪いを持っていても、人間のベルティーナ様に分かるわけないじゃないですか」

 必死になってフォローを入れられるものだが、ベルティーナは依然として腑に落ちない様子でさらにじとりと目を細めた。

「そうね……魔に墜ちればきっと変わるでしょうけど」

 そう言って、ベルティーナは再びカップに口をつけて紅茶を啜った。

 しかしながら、いまだに自分は魔に墜ちていない。ときどき胸の紋様が熱くなる兆候らしきものがあるが、それでもまだ何か満たされていないのか、変化は微塵もなかった。

 ……だが事実、兆候が訪れる頻度は確実に多くなっただろう。魔に墜ちることは喜ばしいことのはずだが、ベルティーナの心の内では畏怖の感情が膨らみつつあった。

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