呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第2話 暮れゆく庭、夜の門扉

 その日はいつもと変わらず穏やかに過ぎていった。

 朝食をとり、掃除をして、乾燥した薬草で薬やお茶を拵えた後、少しばかり荷造りをした。午後は窓辺のソファでまどろみながら読書をし、夕暮れ時には庭園に出て草木に水やりをした。

 ……そうして、遅い日没と同時に夕食をとり、さきほど食べ終えたばかり。

 ベルティーナが食器を片付けているさなか──コツコツと塔の下層から扉を叩扉(こうひ)する音が聞こえた。
 
 迎えに来たのだろう。それを察し、前掛けを外した彼女は、足早に下層へ続く階段を下りる。
 その間も、しつこく扉を叩く音が聞こえるので、少しばかり苛立ったベルティーナは一つ舌打ちをしてドアノブを捻った。

「こ……こんばんは、ベルティーナ様」

 ドアの前にいたのは、お仕着せのエプロンドレスを纏った、すらりと背の高い女性だった。
 自分よりわずかに年上といった風貌だろう。

 ──艶のない短い灰金髪に、丸いヘーゼルの瞳。肌は白さを超えて青白い。
 それでも、どこか活発そうな印象を与えるのは、頬にそばかすがあるからだろう。そんな彼女を真っ正面から見据えたベルティーナは、夜の挨拶を返すでもなく「何」と短く答えた。

「な、何って……お迎えに上がりました。本日はベルティーナ様の誕生日で……その、今日が、あの。まず湯殿(バーデン)へとご案内しようかと」

 何を言いたいかは分かるが、まるでしっかりと言えていない。
 眉間に皺を寄せたベルティーナは、冷たい視線で彼女を射貫き「そう」と冷たく切り返す。

 新人だろうか。あるいはくじ引きでハズレを引いてしまったのか……。
 王城の使用人が急用の際、こうして訪れることは幾度かあったが、必ずと言ってよいほど前回とは違う者がやって来る。
 しかも皆、お決まりのように怯えた表情を貼り付けてやって来るのだ。

 ベルティーナにしても、自分が〝魔性の者に呪われた王女〟だからこそ彼女たちが怯えるのはよく分かっていた。

 しかし、どう見たって自分は人間だ。それに、使用人を罰する権力さえ持っていない爪弾きの王族だ。いったい自分のどこに恐れる要素があるのかも分からないが……さすがに毎度これではうんざりしてしまう。

 ベルティーナは呆れた視線で彼女をじっと射貫いた。

 それにしても、今回の使用人はあまりに怯えすぎではないだろうか……。
< 9 / 164 >

この作品をシェア

pagetop