呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 いや、自分の場合は複製になんて負ける気がしなかった。偏屈な賢女に育てられた毒花の王女とさえ言われた娘だ。当人の方が屈折している可能性だって無きにしも非ず。複製にみすみす負けるわけがないだろうとさえ思った。

 それに、自分のことは自分が何よりも理解しているはずだ。だからこそ、確実な勝ち目はあるだろうと思えて、ベルティーナは胸を撫で下ろした。

 ──だけど唯一怖いと言ったら、やっぱり苦痛よね。けれど、私はいったいどんな魔性の者に成り果てるかしらね……。

 そんなことを思いつつ、食べやすいようにカットされたバームクーヘンをデザートフォークで突いた途端だった。

「ベル様ー、ベル様ー! いらっしゃいますー?」

 遠くから双子の猫侍女たちの騒がしい大声が響き渡り、ベルティーナはたちまち眉を寄せた。

 何用だろうか。いい加減にこの騒がしさには慣れたが、静謐の中でいきなり大声で呼ばれれば、いまだに目眩を覚えることもある。ベルティーナは呆れた視線で声のした方を探ると、二人はとことこと走りながら庭園に入ってきた。

「あら。あの子たち、もうお掃除が終わったのかしら?」

 ハンナは立ち上がって庭園の二人に向けて手を振ると、どうやら気づいたようで、彼女たちはぶんぶんと両腕を振って、きゃっきゃと笑い声を上げながらこちらに向かってくるのが見えた。

「……貴女、まるでお姉さんね」

 駆け寄る双子の猫侍女を横目に、ため息交じりに言うと、ハンナはくすくすと笑みをこぼした。

「確かにそうですね。まだ少しばかり幼いですし、とても可愛らしいですよ。でも先日の拉致騒動の件と言い、ベル様も人のこと言えないんじゃないですか?」
「貴女、随分と言うようになったわね。私にはそんなモフモフの耳も尻尾もないわよ」

 呆れた調子で突っぱねるように言うが、ハンナは依然として優しい笑みを向けていた。

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