呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 ──お時間もないので強硬手段に出ます、と宣言するや否や、ハンナは吠えるように双子の猫侍女に呼びかけた。

「ほら、イーリス、ロートス! 早くベルティーナ様の召し物を脱がせてちょうだい!」

 対して、双子の猫侍女たちは明るい一つ返事。その一拍後にベルティーナのエプロンやドレスを脱がせ始めたのである。

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 貴女たち、さすがにこれは無礼よ! 不敬すぎるわ!」

 本当に思わぬ展開である。ベルティーナは目を白黒させて喚くが、彼女たちはもうお構いなしだった。

「何を仰るのです、ベルティーナ様。無礼も何も……以前、堅苦しい態度を取らなくていいなんて言ったの、ベルティーナ様じゃないですか?」

 少しふてくされた調子でハンナが言う。
 だが、事実、以前に〝王女らしい扱いなんてされてこなかったものだから馬鹿と丁寧に接しなくていい〟と自分は言っただろう……。

「貴女、本当に言うようになったわね……」

 この台詞は何度目だろう。ベルティーナは眉を寄せて、自分を取り押さえるハンナに言うと、彼女は黄金(きん)の瞳を細めて少しばかり狡猾に笑んで見せた。

「ええ、当然ですよ? 狼は狡賢くて意地悪なんですから」

 しかし、本当によく言うようになったと思う。初めて会ったときはおどおどするばかりだったというのに……。
 そして、自分も随分と変わった気がするとベルティーナは思った。

 こんな騒々しいのは嫌いだったはずなのに。何でも他人の好意だって拒んでいたはずなのに。心の奥底で凍りついたものが緩やかに解けていくような感覚さえするもので……決して嫌とも思えなかった。むしろ嬉しく思えてしまうもので。

(そんな私が、毒花の王女ベラドンナね……)

 陰で囁かれていた通称を思い出し、ベルティーナは思わず笑んでしまった。

 素っ裸になって浴室に押し込まれてしまえば、もう湯浴みする以外に選択肢なんてない。
 そうしてベルティーナが湯浴みを済ませ、背中の大きく開いたアンダードレス一枚で部屋に戻ると、三人の侍女たちはやる気に満ち溢れた面持ちで待ち構えていた。

 クローゼットは全開に開けられており、鏡台の前にはずらりと化粧道具が並んでおり、もう見るからに準備は万端だった。

「さてさてベル様、ベル様が大好きな紫のドレスを吟味しておきましたよ!」

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