呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 初めて会ったときは、本当にまったく感情が読み取れもしなかった。見た目は乱暴そうなのに、とてつもなく陰湿な人かと思ったほどで……。

「貴方が言えたことじゃないわよ?」

 刺々しく言うと、ミランはこめかみを揉んで唇をへの字に曲げた。

「その理由は前にも言っただろ? 俺なりに色々気を遣った結果というのか……」
「それでいて、性別不詳の美人な幼馴染みとは大の仲良しで。同じ指輪までするくらいですもんね? 当人に教えるなんて、本当に余計なことをしてくれて」

 思い出すとまた少し腹が立ってきた。
「貴方のせいで恥をかいた」とぴしゃりと言ってやると、ミランはじとりと目を細めてベルティーナをまた一瞥した。

「だけど、それは完全にベルの勘違いだろ? リーヌには悪いけど、正直、今まで生きてきた中で一番面白かったから、つい口が滑った」

 その言葉に、少しだけむっとしたが、数拍すると不思議と唇に笑みが乗り、二人は顔を見合わせたと同時に笑ってしまった。

「何はともあれ……ベルと仲良くできそうで良かった。本当に今さらだけど、これから親しくなれたら嬉しい。よろしくな」
「ええ、お手柔らかに」

 そう言って、ベルティーナはわずかに微笑んだ。

 ***

 城下の街に降りるなり、二人は街の人間に取り囲まれた。

 さすがにミランに関しては顔が割れているのだろう。
「ミラン殿下」と彼を示す敬称は至る場所から響くだけに留まらず、食べ物屋台の商人たちがあれを食べていけ、これを食べていけと食べ物をあれこれ持ってくるものだから、ミランもベルティーナも両手がすっかり塞がってしまった。

 その中には先日食べ損ねたシュネーバルもある。
 袋に入れている最中も見たものだが、六つ入れていただろう。ベルティーナはシュネーバルが入った紙袋を持ち、これは帰って双子の猫侍女やハンナのお土産にもしたいとミランに告げると、彼はそれを了承してくれた。
 せっかくだから二つをどこかで食べて、残った四つは各々の侍女や近侍(きんじ)の土産にしようと、こっそり約束した。

 しかし、街に出ると「王子」として「番人」としてのミランの人望の厚さがよく理解できた。

 まだ齢二十ほどと若い次期君主ではあるが、誰もが彼を慕っている様子はよく窺えるもので、皆ミランを見ると朗らかに声をかけていく。
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