秘密のカランコエ〜敏腕ドクターは愛しいママと子どもを二度と離さない〜
 彩花の状態が落ち着いてきたので、そろそろ手術を含めた転院の話も出てきた。
 転院先は永徳総合病院小児心臓外科。

 そこではたくさんの職種のスタッフが情報共有をして、切れ目のないケアや支援になるように尽力してくれているのが実感できた。
 まずは私だけに説明があり、後日改めて本人向けに説明をしてくれた。プレパレーションというものだ。
 説明を終えてから、彩花のリフレッシュのためにプレイルームに向かった。

「すずかちゃんだ! いっしょにあーそぼ!」
「いいよー!」

 プレイルームでは様々な境遇の親子と出会えた。
 彩花と同じ歳のすずかちゃんとママである友美さんとたまたま行き合う。

 ふたりが遊んでいる間、私と友美さんはいろんな話をして、息抜きする時間となっていた。
 こういう出会いが、私は独りじゃないんだって思えた。

「矢越先生ねぇ、最初怖い人かと思ってたけど話してみると物腰柔らかな先生だしさ、病気というより人をみているっていう感じ? 私の生活習慣とかも含めてアドバイスくれたりしてさ」

 低出生体重児で生まれたすずかちゃん。妊婦時代は、宗一郎さんに診てもらっていたらしい。
 順調な経過だったのに妊娠三十六週で生まれてしまい、そのまま小児科に引き継がれて無事に退院したと言う。
 入院中の子どもが遊べるプレイルームで知り合ったママのほとんどが宗一郎さんのことを知っていて、その人柄や腕前を賞賛していた。

「そうなんですね」
「彩花ちゃんママは小児科からだからあまり関わりないかもだけど、ほんとにいい人よ。相談しやすいから異常の早期発見にも繋がるんだろうね。私も不安に思ったこと隠さず言えたから救われたし」

 永徳では、より高度な管理が必要な妊娠高血圧症候群、子宮内胎児発育不全などの妊婦の受け入れや、NICUで先天的な心疾患、呼吸器疾患、早産児、低体重児などの管理もできるより高度な医療を提供する施設だった。

 この病院ではより身近な『女性の人生』に寄り添っていたのだろう。

『女性だけの診療科かと思われがちですが、子どもの誕生は女性だけでは成り立ちません。男性も含めた、女性の人生を私は診ていきたいです』

 あの日見た番組のインタビューの中でそんなことを言っていたのをふと思い出した。

「ママ、しゅじゅつっていたい?」
 プレイルームから病室へ戻り、昼食の準備をしていた時のこと。
 昨日、主治医の先生と看護師から説明されたことを覚えていたのだろう。
 私は手を止め、ベッドに座る彩花の隣に座った。

「手術のお話聞いて怖くなったの?」
「……ちょっとだけ」
「うーん、そっか。眠くなるお薬をマスクから吸って眠っている間に終わるんだけどね。たしかに、目が覚めたら痛くなるかもしれないね」
「ううっ」

 彩花は昔から明るくて元気で、友達にも優しい強い子だった。転んで泣いても、すぐに泣き止んじゃうようなたくましい子。
 大人だってオペは怖い。私も未経験なものをこの子は体験しようとしている。
 精一杯サポートしなくては。

「ママとパパも一緒に頑張るからね。彩花も一緒に頑張ろう?」
 基本的に心房中隔欠損症では無症状のことが多く経過観察が多い。

 しかし彩花の場合、心不全症状が出ている上に孔のサイズ的にも手術適応となった。
 彩花はアンプラッツァー閉鎖栓を使ったカテーテル治療をするため、身体にメスは入らない。
 それでも恐怖は大きいはずだ。
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