秘密のカランコエ〜敏腕ドクターは愛しいママと子どもを二度と離さない〜
それから私は、なぜ彼の前から何も言わずに去ったのか、その後の生活や彩花の誕生まで、これまでのすべてを話した。
私の父は、実は浮気の末に相手の女性を妊娠させた過去がある。
結局、その女性は中絶を余儀なくされた。
そして、その手術を行ったのが、宗一郎さんのお母様が院長を務める『やごしレディースクリニック』だった。
あの時の私は、縁は切ったものの自分の父親の過去が彼の家族と繋がっていると知った瞬間、どうしようもなく怖くなった。
自分のせいで彼の人生を壊してしまうのではないかと。
それでも、彼と紡いだ思い出の結晶として、どうしても彼との子どもが欲しかった。
だから私は、誰にも告げずに妊娠し、ひとりで彩花を産んだ。
そんなことを考え、実行してしまうような女が宗一郎さんの妻になれるわけなんてない。
もし、そうしたいのであれば、絶対に彼に知られず私と彩花とふたりで生きるしかなかった。
その覚悟はしていた。
そして、ちょうどその頃、宗一郎さんは大きな学会で研究発表を控えていた時期でもあった。
彼の未来を支えるどころか、足を引っ張ってしまうとわかっていたのだ。
私は宗一郎さんと釣り合う女ではない。
彼の輝かしい未来を壊す前に、私の過去が誰かによって明かされる前に、一日でも早く消えるしかなかったのだと──。
過去を告白した後、それらを咎めることなくすべて受け止めてくれた宗一郎さん。
「茉奈は誰かのために泣いたり怒ったりして寄り添う人だった。傍にいる人の心にそっと優しさをくれるような温かい灯火みたいな。それなのに、自分に対してその優しさは向けようとしない。だから俺は、茉奈と一緒に幸せになりたいと思った。そのためなら俺は、どうなっても構わない。茉奈が隣で笑ってくれるなら──」
私は涙で滲む視界の中で、彼の温もりを確かに感じた。
『宗一郎さんは優しいから。私のどんな過去だろうと、きっと愛してくれると信じていた。だから、何も言わずに去ったの。宗一郎さんの未来を守りたかったから』
やっと言えた。
後ろめたい気持ちから解放された私は、霧がかった終わりの見えない暗闇を抜け出したようだった。
『医者としての名声より、茉奈と一緒にいる未来を俺は選ぶ』
『俺が産科医になろうと思ったのは母の影響だけじゃない。未来の妻のためにもなりたいという思いもあったんだ。だから、もう離れないでほしい。守らせてほしい』
その言葉が、私にとって何よりの救いだった。
こんな巡り合わせがあったのなら、これから訪れる未来は決して悪くはないのかもしれない。
そう願えるほどに幸せに満ちたひと時だった。
「ママ、おきて」
「んん……あ、もう朝……」
「ねぇねぇママきいて。きのうね、パパがゆめでただいまっていってかえってきたんだよ!」
彩花の無邪気にはしゃぐのを見ると、私は間違っていなかったと思えた。
「彩花が見た夢、それはね、実は本当のことなんだよ!」
「えー! じゃあパパにあえるの!?」
「うん、そうだよ」
そして、彩花の付き添いもしたいと言ってくれた。職場には上手く説明して、何日か休みを貰えるよう交渉すると。
ちょうど応援勤務がメインの時期であり、その間は病院近くの寮に滞在するから、そこで交代する予定となった。
それまでに彩花と宗一郎さんとの信頼関係も構築しなくてはいけない。
「今度パパが会いに来てくれるって話していたけど、彩花はどう? 会ってみたい?」
「うん!」
彩花はパパという存在に会うことに乗り気なようで、私としては安心したのであった。
こうして私と宗一郎さんは、必要に応じて付き添いを交代する日々が始まった。
医師と父親の両立は想像以上に大変なことだろう。
それでも宗一郎さんは、忙しい仕事の合間に顔を見せてくれたり、休日には「少しの時間だけでも」と言って、私がリフレッシュできるように時間を作ってくれる。
そんな存在が、今の私にはとてもありがたくも頼もしい支えとなっていた──
私の父は、実は浮気の末に相手の女性を妊娠させた過去がある。
結局、その女性は中絶を余儀なくされた。
そして、その手術を行ったのが、宗一郎さんのお母様が院長を務める『やごしレディースクリニック』だった。
あの時の私は、縁は切ったものの自分の父親の過去が彼の家族と繋がっていると知った瞬間、どうしようもなく怖くなった。
自分のせいで彼の人生を壊してしまうのではないかと。
それでも、彼と紡いだ思い出の結晶として、どうしても彼との子どもが欲しかった。
だから私は、誰にも告げずに妊娠し、ひとりで彩花を産んだ。
そんなことを考え、実行してしまうような女が宗一郎さんの妻になれるわけなんてない。
もし、そうしたいのであれば、絶対に彼に知られず私と彩花とふたりで生きるしかなかった。
その覚悟はしていた。
そして、ちょうどその頃、宗一郎さんは大きな学会で研究発表を控えていた時期でもあった。
彼の未来を支えるどころか、足を引っ張ってしまうとわかっていたのだ。
私は宗一郎さんと釣り合う女ではない。
彼の輝かしい未来を壊す前に、私の過去が誰かによって明かされる前に、一日でも早く消えるしかなかったのだと──。
過去を告白した後、それらを咎めることなくすべて受け止めてくれた宗一郎さん。
「茉奈は誰かのために泣いたり怒ったりして寄り添う人だった。傍にいる人の心にそっと優しさをくれるような温かい灯火みたいな。それなのに、自分に対してその優しさは向けようとしない。だから俺は、茉奈と一緒に幸せになりたいと思った。そのためなら俺は、どうなっても構わない。茉奈が隣で笑ってくれるなら──」
私は涙で滲む視界の中で、彼の温もりを確かに感じた。
『宗一郎さんは優しいから。私のどんな過去だろうと、きっと愛してくれると信じていた。だから、何も言わずに去ったの。宗一郎さんの未来を守りたかったから』
やっと言えた。
後ろめたい気持ちから解放された私は、霧がかった終わりの見えない暗闇を抜け出したようだった。
『医者としての名声より、茉奈と一緒にいる未来を俺は選ぶ』
『俺が産科医になろうと思ったのは母の影響だけじゃない。未来の妻のためにもなりたいという思いもあったんだ。だから、もう離れないでほしい。守らせてほしい』
その言葉が、私にとって何よりの救いだった。
こんな巡り合わせがあったのなら、これから訪れる未来は決して悪くはないのかもしれない。
そう願えるほどに幸せに満ちたひと時だった。
「ママ、おきて」
「んん……あ、もう朝……」
「ねぇねぇママきいて。きのうね、パパがゆめでただいまっていってかえってきたんだよ!」
彩花の無邪気にはしゃぐのを見ると、私は間違っていなかったと思えた。
「彩花が見た夢、それはね、実は本当のことなんだよ!」
「えー! じゃあパパにあえるの!?」
「うん、そうだよ」
そして、彩花の付き添いもしたいと言ってくれた。職場には上手く説明して、何日か休みを貰えるよう交渉すると。
ちょうど応援勤務がメインの時期であり、その間は病院近くの寮に滞在するから、そこで交代する予定となった。
それまでに彩花と宗一郎さんとの信頼関係も構築しなくてはいけない。
「今度パパが会いに来てくれるって話していたけど、彩花はどう? 会ってみたい?」
「うん!」
彩花はパパという存在に会うことに乗り気なようで、私としては安心したのであった。
こうして私と宗一郎さんは、必要に応じて付き添いを交代する日々が始まった。
医師と父親の両立は想像以上に大変なことだろう。
それでも宗一郎さんは、忙しい仕事の合間に顔を見せてくれたり、休日には「少しの時間だけでも」と言って、私がリフレッシュできるように時間を作ってくれる。
そんな存在が、今の私にはとてもありがたくも頼もしい支えとなっていた──