野いちご源氏物語 四二 匂兵部卿(におうひょうぶきょう)
年が明けると内裏(だいり)で弓の競技会が行われる。
警備(けいび)を担当する部署(ぶしょ)の役人が、左方(ひだりかた)右方(みぎかた)に分かれて競い合うの。
勝負が決まると、勝った方の長官は部下を自分のお屋敷に連れて帰って、宴会(えんかい)(ねぎら)う。

今年も左方が勝った。
左方の長官である右大臣(うだいじん)様は、六条(ろくじょう)(いん)に宴会の用意をしていらっしゃった。
親王(しんのう)様たちにもお越しいただくつもりで入念(にゅうねん)に準備されている。
匂宮(におうのみや)様をはじめとした親王様たちは、右大臣様の乗り物にお乗りになる。
(かおる)(きみ)は負けた右方でいらっしゃるから、そっと帰ろうとなさっていた。
「親王様たちのお見送りにあなたもいらっしゃい」
と右大臣様がお誘いになったので、右大臣様のご子息(しそく)たちと六条の院に向かわれる。

道中(どうちゅう)では雪が少し散って、うっとりするような夕暮れ時になった。
笛を美しく吹きながらたくさんの乗り物が進んでいく。
六条の院はあいかわらず優雅で、こういう楽しい集まりにもっともふさわしい場所だとどなたもお思いになる。

お酒の(さかずき)が回って宴会は盛り上がっていく。
お庭で(まい)()われると、(そで)をひるがえす動きに合わせて梅の香りが室内に入ってきた。
それが薫の君の香りと混ざって、すばらしく(にお)い立つ。
物陰から(のぞ)いている女房(にょうぼう)たちは、
「暗くてお姿はよく見えないけれど、すばらしい香りですこと」
とほめそやす。

右大臣様もほれぼれとご覧になる。
お酒の席だというのにいつも以上にきちんとなさっているから、ついお声をおかけになった。
「薫の君もお歌いなさい。お客ぶってひどく()ましておられるではないか」
場の雰囲気を壊さない程度に薫の君はお歌いになる。
そういうところは器用な方でいらっしゃる。
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