副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
「あの、そんなにじっと見られているとやりづらいのですが……」

 キッチンに立って、まだ数分と経っていないのに、もう彼がダイニングテーブルの椅子に腰掛けている。
 自前のタブレットを開いてはいるものの、視線は画面ではなく私の方を向いていた。

「俺のことは気にするな」
「気になります!!」

 危うく、手元が狂いそうだ。
 付き合っていた頃も、よく私が料理しているところを見ていたけれど、何が楽しいのだろう。
 やり辛さを覚えながらも野菜を切り、肉に下味をつけていく。
 その他にも、いろいろと下準備をしたあとは、一気にフライパンで食材を炒めた。

「相変わらず、手際がいいな」
「ちょっと、後ろに立ったら危ないです」
「……その他人行儀な感じ、やめないか?」

 昔みたいに話してほしいとお願いされて、もごもごと口を動かす。

(そんなことをしたら、ますます付き合っていた頃に戻っちゃうじゃない……)

 ただでさえ、一般的な家政婦と比べて依頼人と距離が近いというのに。

 これ以上、踏み込ませてはいけないと思えば思うほど、彼が近づいてきた。
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