副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
「味見したい」
「ダメ。それに、熱いから」
「大丈夫。少しだけ」

 子どもみたいに味見をせがむ彼に根負けして、軽く冷ましてから、作り途中の生姜焼きを口に入れる。
 まだ、私自身も味を見ていないけれど、彼は「美味い」と言って、さらにもう一口食べたいとせがんできた。

「今度こそダメ。またあとでね」
「……わかった」

 すごすごと引っ込んでいった彼が、タブレットを持ってソファーに腰掛ける。
 それからは仕事モードになったのか、私が食事を作り終えるまで、静かに仕事をしていた。
 時折、携帯をみたり、タブレットを開いたり、かと思えばいつの間にか広げていたらしい資料を見返していたり。

 こんな時間まで働いている彼の身を案じながらも、生姜焼きをメインに味噌汁や煮浸し、照り焼き味のつくねなども用意する。
 つくねに関しては、明日もおいしく食べられるようにトマト煮込みに味変したものをタッパーに詰めた。

 そうしてすべての料理をダイニングテーブルに運び、彼を呼ぶ。
 かなり集中していたのか、二度ほど彼の名前を呼んだ。

「慎也さん、ご飯できましたよ」
「……ん、あぁ、ありがとう、波留」

 こうして名前を呼び合うと、ますますむず痒い気持ちになる。

 彼の分の食事だけ用意したら、案の定、波留も食べろと言われてしまい、仕方なく自分の分も少しだけ用意した。

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