副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
◇
「紬、眠っちゃった……」
おやつを食べ、おもちゃで遊び、すっかり疲れ果てて眠ってしまった紬をソファーの上へ運んだ私は、彼とともにダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。
お茶を淹れると言って、わざわざ用意してくれた彼からカップを受け取りながら白い湯気を見つめる。
どうやら紅茶を淹れてくれたようで、とてもいい香りがした。
いつもの私であれば喜んで口をつけるけれど、いまはそんな気にもなれない。
一方の彼は優雅にカップを傾けたあと、私に向き直った。
「で、そろそろ話してくれるよな?」
「……はい」
「紬は、俺と波留との間に生まれた子……だよな?」
その問いにこくりと頷く。
激しく問い詰められると思ったけれど、意外にも彼は冷静だった。
「どうして黙ってたんだ」
「それは……あなたの仕事の……起業するっていうあなたの夢の邪魔をしたくなくて」
「邪魔だって……?」
彼の眉がぴくりと跳ねる。心外だと言わんばかりに、彼は目を吊り上げた。
「俺は波留を邪魔だと思ったことは一度もない。むしろ、あのときだって別れたくなかった。無理やり別れ話をされて戸惑ったし、怒りだってわいたほどだ。それだけ、波留のことが好きだったから」
そう言われて、ずきりと胸の奥が痛む。
別れ話をしたときも、慎也さんは同じ表情をしていた。別れたくないとも言っていた。
それを無理やり振り切って別れのは、私だ――。