副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
 だけど、最後の最後で一歩を踏み出す勇気のない私が邪魔をする。

 私はそっと彼の手を掴むと、その手を離した。

「ごめんなさい……」
「波留」
「できないよっ! だって、私は紬の母親だし、それにあなたの反対を押し切って別れたんだよ? そんな身勝手な私が、あなたを好きで居続ける資格なんてっ」

 ――ない。

 我が儘な私を許してほしいと、ぼろぼろと涙を零す。

 こんなにも、好きで、苦しい。傍にいたい。
 心臓が壊れそうなほど痛くて、たまらない。

 もう二度と、彼から好きだと言ってもらえないだろうな、と諦めの気持ちでいると、力強く腕を引かれた。

「資格なんて必要ない。それに、その言い方だと俺に気持ちがあるように聞こえる」
「……っ」
「なぁ、波留。俺のことは嫌いか?」
「……ずるいよ、その聞き方。嫌いなわけ、ない」
「じゃあ、好き?」

 そう問われて、私は頷くこともできず、かと言って否定もできずに彼の体を押し返す。
 だけど、逃さないとばかりにまた強く体を抱き締められた。
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