用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて私は幸せです~
 物心ついた頃から、エレインの家族は母だけだった。父は家に寄り付かなかったし、母の実家は遠方で疎遠だった。そして、十歳で母が亡くなってからは、エレインはずっと一人だった。
 血のつながった父も、妹も、家族とは到底言えない関係で。安心できる唯一の場所は母が残してくれた温室だけ。
 ずっと、独りだった。
 周囲の人たちはみんな、“エレインのハーブ”がほしいだけで、エレイン自身を見てくれていたわけではない。
 それをわかっていたし、それでいいとも思っていた。どんな形であれ、必要としてもらえるなら、そこに自分がいてもいい理由(・・・・・・・)があるから。
 精霊と記憶の中の母だけを心の拠り所にして生きてきた。
(それでよかった、はずなのに……)
 ここにきて、アランとテオと過ごす内に、自分はどんどんどんどん欲張りになってしまっていたようだ。
 アランは、特別な力がなくても必要としてくれて、居場所を与えてくれた初めての人。
 テオも、真っ直ぐな親愛をもってエレインを受け入れてくれた。
 この二人とずっといられたら……。
(家族に、なれたら……)
 そうなれたらどれほど幸せだろうかと、何度も夢に見た。それを、今、目の前のアランが自分に(こいねが)っている。
 これは現実なのか、わからなくなるエレインの手を、アランがそっと取って優しく握った。
「これから先の人生を、俺のそばにいてくれないか」
「……っ」
 これ以上ない喜びに、嗚咽で言葉が詰まる。それを躊躇いだと感じたのか、アランが言葉を重ねる。
「きみが倒れて、今度こそきみを失うかと、怖くてたまらなかった。きみがいなくなるなんて考えられないんだ。誰よりもきみの近くで生きて、きみを支えたい。きみに好きになってもらえるように努力するし、誰よりもきみを幸せにすると誓う」
 だからどうか、とアランは懇願する。
 熱烈な愛の言葉に、顔だけじゃなく体全体が熱を持っていく。
 その熱に浮かされるように、エレインは口を開いた。
「私も……心からお二人をお慕い申し上げています。私の心は、とっくに殿下のものです。ですから……どうか、私を殿下とテオさまの家族にしてくださ――」
「エレイン!」
 言い終えないうちに、エレインはアランの胸に抱きしめられていた。
「エレインすき! だーいすき!」
 アランとテオに応えるように、エレインも腕を回して愛しい人たちを抱きしめた。
「私もです、大好きです!」
(お二人を、心から愛しています)
 恥ずかしくて口にはできない言葉を、胸の中でつぶやいたそのとき。
 ランプの灯りだけだった温室内が瞬く間に光に満たされた。
「まぶちい!」
 そしてまるで爆発するように光の塊が空高く昇っていったかと思えば、つぎの瞬間には散り散りになり、流れ星のようにゆっくりと地上に降り注いだ。
「わぁ! きらきら!」
精霊がやってきた(・・・・・・・・)んだ。俺たちを祝福してくれているのかな?」
「えぇ、そうですね」
 温室内の精霊たちは、三人の周りを囲んでぐるぐると回っている。
 まるでダンスでもしているような姿に、エレインは嬉しくなった。
「今の! 今の光はなんですか! エレインさまがやったんですか!?」
 外にいたニコルが、興奮状態でドアを開けて温室にやってきた。
「こらニコル、邪魔をしてはいけません!」
 と、今度は慌てたセルジュがニコルの首根っこを掴んで引き戻す。
 一瞬で消えた騒がしさに、エレインたちは目を見合わせて、笑った。
「ふふふ」
「ははは」
「ふふ、ニコル、セルジュに、め!ってされてたね」
「ですね」
 夜の温室に、三人の笑い声が響く。
「エレインにもう一つ、俺とテオから贈りたいものがあるんだ。テオ、覚えてるか?」
 これ以上なにを、と戸惑うエレイン。
「おぼえてるー!」というテオの元気な返事を訊くや否や、二人の顔が近づいてきて――

 ――ちゅっ

 と、両頬にキスが落とされた。
 自分の身に起こった出来事に、エレインの顔は一瞬で真っ赤に染まり、それを見た二人は顔を見合わせて笑う。
 母との思い出ばかりだった温室に、アランとテオとの幸せな記憶が刻まれた瞬間だった――……









fin.
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