蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
着替えを澄ませた悠眞は、玲奈をソファーに座らせると、自分も隣に腰を下ろしてこう切り出した。
「実はJTAの親会社である鷹翔グループの経営状況がかんばしくない」
その言葉に、玲奈の頭に〝倒産〟の二文字が過る。
玲奈のその思いを裏付けるように、悠眞は「だから俺は、パイロットの仕事を辞めるべきではないかと悩んでいたんだ」と、続けた。
「パイロットって、転職が難しいお仕事なんでしょうか?」
悠眞と暮らすようになって、玲奈も、国際線を飛ぶ旅客機には幾つかの機種があり、機種ごとにタイプレーティングと呼ばれる資格を取る必要がるといった多少の知識はついてきた。
でもJTAで運行されている機種がどういったもので、その資格だけでは他社に移るのが難しいとか、そういったことまではわからない。
「玲奈は、俺がパイロットを辞めたら嫌いになるか?」
弱気な表情を見せる悠眞に、玲奈は、まさかと目を丸くする。
「私が心配しているのは、どうすれば悠眞さんが、このまま大好きな仕事を続けられるのかということです」
玲奈としては、悠眞の職業がなんであるかなんて関係ない。
ただ彼に、好きな仕事を続けてもらいたいと思っているだけだ。そしてできることなら、これからもふたりで仲良く暮らしていきたい。
そして将来的に子供に恵まれた時には、家族みんなで仲良く暮らしていければと思う。
玲奈がそういった、自分の正直な思いを言葉にしていくと、悠眞が表情を和ませた。
「ありがとう。そうだな、玲奈ならそう言ってくれると思っていた。……試すようなことを言って悪かった」
「悠眞さん、そんな」
とんでもないと、玲奈は慌てた。
「俺も、いつか玲奈との間に子供がほしい。そして、ふたりで暖かい家庭を作って、死がふたりを分かつ時まで、ずっと一緒にいたいと思っている」
悠眞は一度深く息を吐き、気持ちを落ち着けてから続ける。
「……そうやって自分が家庭を持つことを意識するようになって、両親がどんな思いで俺やアニキを育てていたか、好き勝手に生きる俺に結婚を勧めていたかを理解したよ。玲奈に出会う前の俺は、自分のことしか考えていないガキだった」
「そんなことないですよ。出会った時から悠眞さんは、しっかりとした大人で、私を気遣ってくれていました」
「玲奈の前だから格好つけていただけだ」
悠眞は照れるが、そんなことはない。
あの日からずっと、玲奈は、彼の強さと優しさに支えられて、徐々に自分らしさを持てるようになっていったのだから。
だから今度は、玲奈が悠眞を支える番だ。
「私は悠眞さんがどんな道を選んでも、あなたの妻として、その決断を応援します。だから、悔いの残らない道を選択してください」
彼と暮らしたこの数ヶ月で、玲奈なりに強くなれたと思う。
だからこの先、彼がどんな道を選んでも、妻として支えていきたい。
「ありがとう。玲奈、鷹翔グループの社長の名前を知っている?」
「え?」
不意に話が飛んだように感じつつ、慌てて記憶を探るけど思い出せない。というか多分、最初から知らないのだ。
「えっと……ごめんなさい。JTAの社長は、森さんという方だったような」
それさえも、かなり記憶が曖昧だ。
もしかして妻になるなら、夫になる人の勤め先どころか、グループ企業のトップの名前なども把握しているのが常識なのだろうか。
あれこれ考え「ごめんなさい。今から急いで暗記します」と謝る玲奈を、悠眞が口元を手で覆ってクスクス笑う。
「悠眞さん?」
彼が突然笑いだした理由がわからず戸惑っていると、悠眞が軽く首を振る。
「玲奈らしいなって思ったら、なんだか肩の力が抜けただけだ。……鷹翔グループの社長の名前は鷹條泰成。専務の名前は、鷹條誠弥だ」
わざわざ調べる必要はないと、悠眞が答えを教えてくれた。
「そうなんですね。おふたりとも、悠眞さんと同じ名字なんですね」
鷹條というのは、ひどく珍しい苗字というわけではないが、そこまでポピュラーというわけでもない。
偶然の一致に驚く玲奈を見て、悠眞がまたクスクス笑う。
「家族だからね」
「え?」
思いがけない言葉に、玲奈は目を丸くする。
「現社長は俺の父で、専務は兄だ」
「ということは、悠眞さんは、鷹翔グループの御曹司……ということですか?」
玲奈の理解が追いつくのを待って、悠眞が言葉を続ける。
「黙っていて悪かった。最初は、俺個人を評価してもらいたいという思いで話さなかった。それに玲奈に惹かれていくに連れて、政略結婚で嫌な思いをした君が、俺の家柄を知れば、不快な思いをするかもしれないという心配もあった」
悠眞がそんなふうに考えているのなんて、思ってもいなかった。
「私にとっては、家や仕事がどうであれ、悠眞さんは悠眞さんですよ」
玲奈の意見に悠眞が頷く。
「俺もずっと、家柄なんて関係なく、俺は俺だと思っていた。だから子供の頃からの夢を叶えてパイロットになった。だけど、会社の経営状況が悪化の一途を辿っていると知って、父や兄の手助けをしたいと思うようになったんだ」
そう話す悠眞は、業績回復のために奔走していた父が、最近体調を崩していることを打ち明けた。
今は医師と相談しながらだましだまし仕事を続けている状況で、息子の嫁には、体調を整えてから会いたいと本人が話しているので、玲奈との顔合わせを先延ばしにしていたそうだ。
「なにも知らなくてすみません」
謝罪する玲奈に、悠眞は首を横に振る。
「話さなかったのは俺だ。だから玲奈は謝ることじゃない」
そう話す悠眞は、そんな状況なので自分も今の仕事を辞めて、鷹翔グループの経営回復に尽力したいのだと打ち明けた。
「悠眞さんは、それでいいんですか? 後悔しませんか?」
家族の問題も絡んでくるので、簡単に気持ちが割り切れないのはわかる。でも玲奈としては、どうしても彼の気持ちを最優にして考えてしまう。
気遣わしげな眼差しを向ける玲奈の頬に手を添えて、悠眞が言う。
「玲奈に出会えたから、後悔しないよ。それに正しく言うなら今の俺は、新しい夢に向かって動き出そうとしているという感じだ」
「え?」
「玲奈に出会って、恋をして、本当の意味で家族になりたいと思うようになった頃から、俺の夢は世界を自由に飛び回るパイロットではなく、どんな困難からも妻や子供を守れる男になるということに変化していった」
そう話す彼の表情に、迷いは感じられない。
「そして、ご両親やお兄さんのことも助けたいんですね」
もちろん悠眞がその覚悟でいるのなら、玲奈がそれを止める理由はない。
「玲奈がそれを許してくれるなら」
悠眞は、自分がJTAを辞めて鷹翔グループの幹部として父や兄をサポートするのであれば、環境の変化が余儀なくされると話した。
おそらく引っ越しも必要になるので、そうなれば、玲奈はクレールでの仕事は続けられない。
たしかにそれは残念に思う。
だけどそれでも、玲奈の気持ちは決まっている。
「私は、悠眞さんの新しい夢の後押しをするために、なにをすればいいですか?」
強い決意を滲ませる玲奈の言葉に、悠眞の表情が和む。
「ありがとう。じゃあまずは、フィアンセとして俺の家族に玲奈を紹介させてくれ」
「よろこんで」
悠眞に手を取られて、玲奈は笑顔で返した。
「実はJTAの親会社である鷹翔グループの経営状況がかんばしくない」
その言葉に、玲奈の頭に〝倒産〟の二文字が過る。
玲奈のその思いを裏付けるように、悠眞は「だから俺は、パイロットの仕事を辞めるべきではないかと悩んでいたんだ」と、続けた。
「パイロットって、転職が難しいお仕事なんでしょうか?」
悠眞と暮らすようになって、玲奈も、国際線を飛ぶ旅客機には幾つかの機種があり、機種ごとにタイプレーティングと呼ばれる資格を取る必要がるといった多少の知識はついてきた。
でもJTAで運行されている機種がどういったもので、その資格だけでは他社に移るのが難しいとか、そういったことまではわからない。
「玲奈は、俺がパイロットを辞めたら嫌いになるか?」
弱気な表情を見せる悠眞に、玲奈は、まさかと目を丸くする。
「私が心配しているのは、どうすれば悠眞さんが、このまま大好きな仕事を続けられるのかということです」
玲奈としては、悠眞の職業がなんであるかなんて関係ない。
ただ彼に、好きな仕事を続けてもらいたいと思っているだけだ。そしてできることなら、これからもふたりで仲良く暮らしていきたい。
そして将来的に子供に恵まれた時には、家族みんなで仲良く暮らしていければと思う。
玲奈がそういった、自分の正直な思いを言葉にしていくと、悠眞が表情を和ませた。
「ありがとう。そうだな、玲奈ならそう言ってくれると思っていた。……試すようなことを言って悪かった」
「悠眞さん、そんな」
とんでもないと、玲奈は慌てた。
「俺も、いつか玲奈との間に子供がほしい。そして、ふたりで暖かい家庭を作って、死がふたりを分かつ時まで、ずっと一緒にいたいと思っている」
悠眞は一度深く息を吐き、気持ちを落ち着けてから続ける。
「……そうやって自分が家庭を持つことを意識するようになって、両親がどんな思いで俺やアニキを育てていたか、好き勝手に生きる俺に結婚を勧めていたかを理解したよ。玲奈に出会う前の俺は、自分のことしか考えていないガキだった」
「そんなことないですよ。出会った時から悠眞さんは、しっかりとした大人で、私を気遣ってくれていました」
「玲奈の前だから格好つけていただけだ」
悠眞は照れるが、そんなことはない。
あの日からずっと、玲奈は、彼の強さと優しさに支えられて、徐々に自分らしさを持てるようになっていったのだから。
だから今度は、玲奈が悠眞を支える番だ。
「私は悠眞さんがどんな道を選んでも、あなたの妻として、その決断を応援します。だから、悔いの残らない道を選択してください」
彼と暮らしたこの数ヶ月で、玲奈なりに強くなれたと思う。
だからこの先、彼がどんな道を選んでも、妻として支えていきたい。
「ありがとう。玲奈、鷹翔グループの社長の名前を知っている?」
「え?」
不意に話が飛んだように感じつつ、慌てて記憶を探るけど思い出せない。というか多分、最初から知らないのだ。
「えっと……ごめんなさい。JTAの社長は、森さんという方だったような」
それさえも、かなり記憶が曖昧だ。
もしかして妻になるなら、夫になる人の勤め先どころか、グループ企業のトップの名前なども把握しているのが常識なのだろうか。
あれこれ考え「ごめんなさい。今から急いで暗記します」と謝る玲奈を、悠眞が口元を手で覆ってクスクス笑う。
「悠眞さん?」
彼が突然笑いだした理由がわからず戸惑っていると、悠眞が軽く首を振る。
「玲奈らしいなって思ったら、なんだか肩の力が抜けただけだ。……鷹翔グループの社長の名前は鷹條泰成。専務の名前は、鷹條誠弥だ」
わざわざ調べる必要はないと、悠眞が答えを教えてくれた。
「そうなんですね。おふたりとも、悠眞さんと同じ名字なんですね」
鷹條というのは、ひどく珍しい苗字というわけではないが、そこまでポピュラーというわけでもない。
偶然の一致に驚く玲奈を見て、悠眞がまたクスクス笑う。
「家族だからね」
「え?」
思いがけない言葉に、玲奈は目を丸くする。
「現社長は俺の父で、専務は兄だ」
「ということは、悠眞さんは、鷹翔グループの御曹司……ということですか?」
玲奈の理解が追いつくのを待って、悠眞が言葉を続ける。
「黙っていて悪かった。最初は、俺個人を評価してもらいたいという思いで話さなかった。それに玲奈に惹かれていくに連れて、政略結婚で嫌な思いをした君が、俺の家柄を知れば、不快な思いをするかもしれないという心配もあった」
悠眞がそんなふうに考えているのなんて、思ってもいなかった。
「私にとっては、家や仕事がどうであれ、悠眞さんは悠眞さんですよ」
玲奈の意見に悠眞が頷く。
「俺もずっと、家柄なんて関係なく、俺は俺だと思っていた。だから子供の頃からの夢を叶えてパイロットになった。だけど、会社の経営状況が悪化の一途を辿っていると知って、父や兄の手助けをしたいと思うようになったんだ」
そう話す悠眞は、業績回復のために奔走していた父が、最近体調を崩していることを打ち明けた。
今は医師と相談しながらだましだまし仕事を続けている状況で、息子の嫁には、体調を整えてから会いたいと本人が話しているので、玲奈との顔合わせを先延ばしにしていたそうだ。
「なにも知らなくてすみません」
謝罪する玲奈に、悠眞は首を横に振る。
「話さなかったのは俺だ。だから玲奈は謝ることじゃない」
そう話す悠眞は、そんな状況なので自分も今の仕事を辞めて、鷹翔グループの経営回復に尽力したいのだと打ち明けた。
「悠眞さんは、それでいいんですか? 後悔しませんか?」
家族の問題も絡んでくるので、簡単に気持ちが割り切れないのはわかる。でも玲奈としては、どうしても彼の気持ちを最優にして考えてしまう。
気遣わしげな眼差しを向ける玲奈の頬に手を添えて、悠眞が言う。
「玲奈に出会えたから、後悔しないよ。それに正しく言うなら今の俺は、新しい夢に向かって動き出そうとしているという感じだ」
「え?」
「玲奈に出会って、恋をして、本当の意味で家族になりたいと思うようになった頃から、俺の夢は世界を自由に飛び回るパイロットではなく、どんな困難からも妻や子供を守れる男になるということに変化していった」
そう話す彼の表情に、迷いは感じられない。
「そして、ご両親やお兄さんのことも助けたいんですね」
もちろん悠眞がその覚悟でいるのなら、玲奈がそれを止める理由はない。
「玲奈がそれを許してくれるなら」
悠眞は、自分がJTAを辞めて鷹翔グループの幹部として父や兄をサポートするのであれば、環境の変化が余儀なくされると話した。
おそらく引っ越しも必要になるので、そうなれば、玲奈はクレールでの仕事は続けられない。
たしかにそれは残念に思う。
だけどそれでも、玲奈の気持ちは決まっている。
「私は、悠眞さんの新しい夢の後押しをするために、なにをすればいいですか?」
強い決意を滲ませる玲奈の言葉に、悠眞の表情が和む。
「ありがとう。じゃあまずは、フィアンセとして俺の家族に玲奈を紹介させてくれ」
「よろこんで」
悠眞に手を取られて、玲奈は笑顔で返した。