蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
「悠眞さん、お疲れですか?」
悠眞は、女性の声にハッとする。
見ると、艶のある黒髪が美しい女性が、こちらに気遣わしげな眼差しを向けていた。
彼女の名前は宮木夏希。鷹翔グループ本社の社員で、今後、悠眞の下につく予定になっている。
退職を決めたとはいえ、すぐにシフトから抜けるわけにもいかず、悠眞は年明けまでは、JTAの社員としての勤務が続いている。
その傍ら、鷹翔グループの立て直しに向けてのプロジェクトも水面下では動き始めているので、最近の悠眞はかなり忙しい。
今も海外線のフライト終わりに、JTAのブリーフィングルームを借りて、兄の誠弥と鷹翔グループの今後の事業展開について話していたところだ。
その話し合いが一息ついて、ついぼんやりしていたらしい。
「大丈夫か?」
同じテーブルに着く誠弥も心配するが、悠眞は問題ないと、合図を送る。
「疲れてないと言えば嘘になるが、パイロットとして働けるはあと少しだ」
気が付けば暦は十二月に入っている。悠眞が機長として搭乗するのも後少しだ。
愛着のある仕事だっただけに、一つ一つのフライトが感慨深い。
「無理させているのはこっちだが、体には気をつけてくれよ。お前に倒れられたら大変だ」
誠弥が本気とも冗談ともつかない顔で言う。
「玲奈も生活面でサポートしてくれているから、大丈夫だ」
「なんだ、のろけか」
誠弥がちゃかしてくるが、事実なので否定しない。
軽く肩を上下させるだけに留めて、気持ちを切り替える。
「そんなことより、鷹翔グループの新規事業の話だが、さっきも言ったとおり……」
悠眞は、誠弥に資料を見せながら意見を述べていく。
ひとしきりそれに耳を傾けていた誠弥は、話を聞き終えて耳朶を揉む。
それは兄が、相手の意見に感心している時の癖だ。
隣に控えている宮木も、表情を見れば悠眞の着想と、実行に向けての根回しに感心しているとわかる。
「お前の方が、よほど経営者に向いている。こんなことなら、最初からパイロットの道に進まず、鷹翔グループに就職させておくべきだったな」
誠弥がそんなことを言うが、それは違う。
「今まで好きにさせてもらったからこその、着想だ。それに必要な人脈だって、パイロットとしてのキャリアがあってのことだ」
仕事柄、様々な国に飛び、添乗員だけでなく、乗客や現地スタッフと交流する立場にいるからこそ、肌で感じられる感覚というものがある。
それは最初から鷹翔グループの御曹司として、出世コースを進んでいては培えなかった感覚くだろう。
「確かにそうだな」
誠弥が、あっさりと認める。
今悠眞たちは、鷹翔グループの起死回生の策として、新規事業を模索中だ。
と言っても、新たな分野に進出するわけでない。
JTAの航空旅客輸送ビジネスに、これまで培ってきたレジャー産業の分野を組み合わせていこうという考えだ。
日本のインバウンド需要が飛躍的に伸びてきた昨今、日本の食や文化には一段と熱い注目が向けられている。
来日して日本食を楽しんだ観光客は近しい人とその喜びを分かち合うためにと、お菓子など日持ちのするものを土産に買って帰るし、できることなら、和牛といった生鮮食品を持ち帰りたいと思う者もいる。
しかし個人で生肉を持ち帰ろうとすると、食肉衛生証明書付きの和牛を買い求め、空港にある動物検疫所で検査を受けて輸出検疫証明書を取る必要がある。日本語が理解できていても、かなり面倒に感じる作業だ。
それを言語が異なる国の人がしようとすれば、その労力はいかほどのものか。
また国によっては、そこまでしても持ち込めないこともある。
そういった手続きや確認の全てを、鷹翔グループの系列ホテルとJTAを利用した顧客に限定して代行しようというのだ。
JTAのエアラインを利用して来日し、鷹翔グループの系列ホテルで日本の食文化を堪能して、客からの希望があれば、料理人から土産として持ち帰る和牛の美味しい調理法のレクチャーを受けることも可能。
そういった全てをセットにした、パックツアーの展開も、今後予定している。
また悠眞が拠点をアメリカに置き、同じようなプランを他国でも実施できるよう、市場を開拓していく予定だ。
この手法なら、これまで鷹翔グループが培ってきた既存のノウハウを活かして、新たな事業展開が可能だ。
父や兄も、悠眞のこの着想に、賛同してくれている。
ただその舵取りを任され、日々忙しくしているため、玲奈に寂しい思いをさせていることだけは申し訳なく思う。
ただそれに関しては、玲奈は気にしなくていいと言ってくれているし、ふたりでアメリカに移り住んで、落ち着いたらこの先の人生をかけて埋め合わせをさせてもらうので許してもらいたい。
「四月の披露宴が楽しみだな」
誠弥が言う。
手放しで褒めてくれる兄の姿に、悠眞は改めて、自分の選択は間違いではなかったのだと思った。
そしてその背中を押してくれた玲奈に、改めて感謝するのだった。
悠眞は、女性の声にハッとする。
見ると、艶のある黒髪が美しい女性が、こちらに気遣わしげな眼差しを向けていた。
彼女の名前は宮木夏希。鷹翔グループ本社の社員で、今後、悠眞の下につく予定になっている。
退職を決めたとはいえ、すぐにシフトから抜けるわけにもいかず、悠眞は年明けまでは、JTAの社員としての勤務が続いている。
その傍ら、鷹翔グループの立て直しに向けてのプロジェクトも水面下では動き始めているので、最近の悠眞はかなり忙しい。
今も海外線のフライト終わりに、JTAのブリーフィングルームを借りて、兄の誠弥と鷹翔グループの今後の事業展開について話していたところだ。
その話し合いが一息ついて、ついぼんやりしていたらしい。
「大丈夫か?」
同じテーブルに着く誠弥も心配するが、悠眞は問題ないと、合図を送る。
「疲れてないと言えば嘘になるが、パイロットとして働けるはあと少しだ」
気が付けば暦は十二月に入っている。悠眞が機長として搭乗するのも後少しだ。
愛着のある仕事だっただけに、一つ一つのフライトが感慨深い。
「無理させているのはこっちだが、体には気をつけてくれよ。お前に倒れられたら大変だ」
誠弥が本気とも冗談ともつかない顔で言う。
「玲奈も生活面でサポートしてくれているから、大丈夫だ」
「なんだ、のろけか」
誠弥がちゃかしてくるが、事実なので否定しない。
軽く肩を上下させるだけに留めて、気持ちを切り替える。
「そんなことより、鷹翔グループの新規事業の話だが、さっきも言ったとおり……」
悠眞は、誠弥に資料を見せながら意見を述べていく。
ひとしきりそれに耳を傾けていた誠弥は、話を聞き終えて耳朶を揉む。
それは兄が、相手の意見に感心している時の癖だ。
隣に控えている宮木も、表情を見れば悠眞の着想と、実行に向けての根回しに感心しているとわかる。
「お前の方が、よほど経営者に向いている。こんなことなら、最初からパイロットの道に進まず、鷹翔グループに就職させておくべきだったな」
誠弥がそんなことを言うが、それは違う。
「今まで好きにさせてもらったからこその、着想だ。それに必要な人脈だって、パイロットとしてのキャリアがあってのことだ」
仕事柄、様々な国に飛び、添乗員だけでなく、乗客や現地スタッフと交流する立場にいるからこそ、肌で感じられる感覚というものがある。
それは最初から鷹翔グループの御曹司として、出世コースを進んでいては培えなかった感覚くだろう。
「確かにそうだな」
誠弥が、あっさりと認める。
今悠眞たちは、鷹翔グループの起死回生の策として、新規事業を模索中だ。
と言っても、新たな分野に進出するわけでない。
JTAの航空旅客輸送ビジネスに、これまで培ってきたレジャー産業の分野を組み合わせていこうという考えだ。
日本のインバウンド需要が飛躍的に伸びてきた昨今、日本の食や文化には一段と熱い注目が向けられている。
来日して日本食を楽しんだ観光客は近しい人とその喜びを分かち合うためにと、お菓子など日持ちのするものを土産に買って帰るし、できることなら、和牛といった生鮮食品を持ち帰りたいと思う者もいる。
しかし個人で生肉を持ち帰ろうとすると、食肉衛生証明書付きの和牛を買い求め、空港にある動物検疫所で検査を受けて輸出検疫証明書を取る必要がある。日本語が理解できていても、かなり面倒に感じる作業だ。
それを言語が異なる国の人がしようとすれば、その労力はいかほどのものか。
また国によっては、そこまでしても持ち込めないこともある。
そういった手続きや確認の全てを、鷹翔グループの系列ホテルとJTAを利用した顧客に限定して代行しようというのだ。
JTAのエアラインを利用して来日し、鷹翔グループの系列ホテルで日本の食文化を堪能して、客からの希望があれば、料理人から土産として持ち帰る和牛の美味しい調理法のレクチャーを受けることも可能。
そういった全てをセットにした、パックツアーの展開も、今後予定している。
また悠眞が拠点をアメリカに置き、同じようなプランを他国でも実施できるよう、市場を開拓していく予定だ。
この手法なら、これまで鷹翔グループが培ってきた既存のノウハウを活かして、新たな事業展開が可能だ。
父や兄も、悠眞のこの着想に、賛同してくれている。
ただその舵取りを任され、日々忙しくしているため、玲奈に寂しい思いをさせていることだけは申し訳なく思う。
ただそれに関しては、玲奈は気にしなくていいと言ってくれているし、ふたりでアメリカに移り住んで、落ち着いたらこの先の人生をかけて埋め合わせをさせてもらうので許してもらいたい。
「四月の披露宴が楽しみだな」
誠弥が言う。
手放しで褒めてくれる兄の姿に、悠眞は改めて、自分の選択は間違いではなかったのだと思った。
そしてその背中を押してくれた玲奈に、改めて感謝するのだった。