蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
 途切れていく意識の中、両親や梢の口論する声を耳にしてた玲奈が次に目を開けた時、視界に見覚えのある天井が飛びこんで来た。
 居候させてもらっている梢宅のリビングの天井だ。

「「ママっ」」

 輸入物のランプシェードを見上げてぼんやり記憶を辿っていると、傍らでふたり分の声が重なって聞こえた。
 ハッとして横を向くと、目を潤ませている双子の姿が目に入る。

「優聖、鈴桜……」

「おっき」

 玲奈が目を覚ましたとわかると、鈴桜が呟いて部屋を飛び出しパタパタと何処かに駆けていく。

「鈴桜?」

 どこに行ったのか確かめようと上半身を起こして、自分がリビングのソファーに寝かされているのだと理解した。ソファーをよじ登ってきた優聖が、玲奈の体にギュッとしがみつく。
 玲奈が着ているシャツを強く握りしめて、顔を押し付けて体を震わせる優聖の姿に、どれほど不安な思いをさせていたのかを知る。

「優聖、ビックリさせてごめんね」

 玲奈が優聖の頭を撫でて落ち着かせていると、鈴桜が梅田と梢を連れて戻ってきた。

「梅田さん、梢さん……」

 緊張した面持ちのふたりの顔を見たことで、倒れる直前の出来事を思い出した。

「お、あ、あの人たちはっ!」

 お父さんたち……と言いかけて、双子の手前、どうにかその言葉を呑み込む。

「梅田君が、追い返してくれたわ。ついでに、チビふたりのお迎えも、梅田君が行ってくれたのよ」

 梢が言う。
 ふたりはまだ慣らし保育の最中なので、保育園は午前中で終わる。
 本来、買い物を終えた玲奈は、少し雑用をしたらすぐにふたりを迎えに行くつもりでいた。

「梅田さん、すみません。ありがとうございます」

「うめちゃん、きた。ごはん、ちゅるちゅる。せいも」

 鈴桜が、ソファーによじ登りながら言う。
 どうやら梅田が双子のお迎えに行ってくれたうえに、昼食もたべさせてくれたらしい。
 ますます申し訳ない気持ちになる。

「梅田さん、なにからなにまで……」

「梢さん、俺、チビたちと遊んでますね」

 玲奈のお礼をスルーして、梅田は双子を外で遊ぼうと誘う。
 一度玲奈の顔を見て安心したのか、外遊び誘われて、双子は喜んで梅田についていく。

「聞いても不愉快なだけだと思って黙っていたんだけど、玲奈ちゃんが東京から戻って来た次の日に、あの人たちから電話を受けたの」

 梅田が双子を連れて部屋を出て行くと、玲奈の隣に腰を下ろした梢がそう切り出した。
 その話によると、突然電話をかけてきて『玲奈の子供を探している。どこにいるか知らないか?』と、一方的な勢いで話したそうだ。
 玲奈を気遣う様子もなく、急にそんな電話をかけてきた幸平を訝り、梢は、玲奈の行方はわからないと嘘をついたのだという。

「他にも偽名を使って同じような電話がかかってきたの。きっとあれが、幸平さんたちの雇った探偵だったんだわ。もちろん、玲奈ちゃんのことなんて知らないって、答えておいたわ」

 その時のことを思い出しているのか、梢が腹立たしげに言う。

「そんな……」

 そんな迷惑をかけていたなんて、思いもしなかった。
 部玲奈は座り直して、梢に深々と頭を下げた。

「梢さん、色々迷惑をかけてしまってごめんなさい。私、ここを……」

「ここを辞めるとか、許さないからね」

 言葉の先を読んで、梢がピシャリと言う。

「玲奈ちゃんもチビも、もう私の家族なんだから、勝手にいなくなるなんて許さないから。それに、あの子たちを連れて、どこに行くつもり? 保育園も始まったばかりで環境を変えるなんて、双子が可哀想でしょ」

 口調は厳しいが、その言葉には梢の優しさが詰まっている。

「ありがとうございます」

「でもあの人たち、今更なんだって……。玲奈ちゃんと本家の娘さんは、親しくしていたわけじゃないんでしょ?」

 梢が言う。

「はい」

 親しいどころか、親子揃って、玲奈を敵視していたくらいだ。

「だとしたら、どうして玲奈ちゃんの子供を養子にしたいなんて言いだしたのかしら?」

 その意見に、玲奈も同意する。
 騙されて実家に呼び戻された際、瑠依奈の夫婦仲が悪いことは耳にしていた。だけどあれだけのことをして結婚した相手と、たった数年で離婚したことには驚かされる。
 なんにせよ離婚したとはいえ、玲奈と同い年の瑠依奈は、今年で二十九歳という若さだ。
 再婚の可能性もあるし、そうなればその相手との子供を望むのが普通ではないのか。
 もし瑠依奈に、自身での出産を諦めるざるを得ない理由があるのだとしても、あれほど目の敵にしていた玲奈の子供を養子に望むはずがない。

(それなのに、お父さんもお母さんも、欲に目がくらんで……)

 親とはいえあんな人たちに、子育てを助けてほしかったとは思わないので、このまま関係を切ってくれればよかったのだ。
 それなのに散々知らん顔をしておいて、突然現れるなり『子供ためにも本家の養子に出すべき』なんて言われたくない。

「今さらあの人たちに、私の人生に口出しされたくない」

 悔しさに拳を握りしめる玲奈に、梢が遠慮がちに言う。

「それなら子供たちのためにも、結婚を考えてみたら?」

「え?」

 玲奈には突拍子もない話に聞こえるのだけれど、梢の方は、以前からこの話を切り出すタイミングを待っていたような雰囲気がある。

「過去の恋愛をどうこう言うつもりはないけど、玲奈ちゃんひとりで、頑張る必要はないのよ。双子ごと玲奈ちゃんを受け入れてくれる人と結婚してもいいんじゃない? 両親が揃っていれば、幸平さんたちも、あそこまでの物言いはしなかったでしょうし。例えば……」

 その先に誰の名前が続いても関係ない。
 玲奈が悠眞以外の人を愛すことはないし、あのふたりの父親は彼以外ありえないのだから。
 玲奈は大きく首を横に振ることで、梢の言葉を遮った。

「私、ふたりをちゃんと育てられるよう、もっと強くなります」

 玲奈は自分の覚悟を口にする。
 玲奈はもう大人だ、身勝手な自分の両親に振り回されることなく、双子のためになにをすべきかを決めなくちゃいけない。
 思ったことを声にしないといけないと、玲奈に教えてくれたのは悠眞だ。
 だから彼の残してくれた双子を守るためにも、玲奈は再度自分の覚悟を口にする。

「両親や、白石の本家がなんて言ってきても、私には関係ありません。次にまたあの人たちが来たら、自分の言葉でそれを伝えます」

 優聖と鈴桜のために強くならなくてはいけないと、玲奈は強く思った。
 言葉にした玲奈の願いを叶えてくれる悠眞は、もういない。
 玲奈だって、あの頃の自己主張が苦手な萎縮した自分とは違う。
 だからふたりの子供の母として、自分で自分の願いを叶えていこう。
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