そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~
「……あーあ、気分悪くなった。かえろ」
男は立ち上がり、私を見て。
「また会いに来るね」
ぞっとするほど、優しい声で笑った。
追いかける気にも、責める気にも、ならなくて。
そのまま、闇に溶けるように姿を消すのを見ているしかできなかった。
静寂が、戻る。
ノクターンの気配が、完全に消えたあと。
残ったのは、花火の音と焦げた火薬の匂いと
私の腕の中にいる、蓮の体温。
「……っ、………蓮……」
掠っただけだと、分かっている。
血の量も、多くない。
致命傷じゃない。
頭では、ちゃんと理解している。
冷静に考えれば、命に関わる傷じゃない。
怪我を伴う危険な任務だって、何度も経験してきた。
……それなのに。
抱きしめている腕が、どうしても震えてしまう。
止めようと思えば思うほど、指先まで細かく震えが広がっていく。