そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~



──風呂上がりに廊下で鉢合わせた時も。


彩葉がタオルを抱えたまま立ち止まったから、俺は何の気なしに手を伸ばした。


髪が少し濡れていたから、拭いてやろうと思っただけ。


でも、その手が届く前に彩葉は一歩後ろに下がった。


「……いい」


声音はきつくないけど。

でも…やっぱり距離を取られている気がする。


「……あ、ああ」


思わず、手を引っ込めた。


その瞬間、彩葉が一瞬だけ唇を噛んだのが見える。

まるで、自分でもやってしまったことに戸惑っているみたいに。


「……ごめん」


小さな声でそう言われて。

でも、謝られた理由が分からない。


「……別に」


そう返すしかなかった。


最初は、俺の方が彩葉を突き放していた。


でも…もう、そんな距離でいられる関係じゃなくなってしまった。

好きになってしまったから。






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