そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~
「……覚悟は、できてるんだな」
ようやく向けられた言葉は、責めるでも慰めるでもない。
ただの、確認。
「はい」
即答した。
できている“ふり”なら、もう完璧だった。
創さんは私をまっすぐ見てから、ほんの一瞬だけ視線を逸らした。
「……彩葉ちゃん」
梓さんが、そっと私に近づく。
迷うように空中で止まった手が、静かに私の肩に触れた。
「蓮ね……あなたが来てから、本当に柔らかく笑うようになったの」
……嬉しい、なんて思ってしまう。
もし私が、普通の女の子だったら。
もし私が、護衛じゃなかったら。
彼氏の家族に言われるには、この上ない言葉なのに。
「……ほら、ウチってこういう家だから…蓮も段々笑わなくなっちゃって。笑ったとしても、作り笑顔で」
蓮は、暴力もヤクザも嫌い、と言っていた。
その理由が、今なら少しわかる。
無理に背負わされてきたもの。
笑う余裕すら奪われてきた時間。
「………お役に立てたのであれば、嬉しいです」
……私も今、作り笑顔だ。
蓮といる時は、自然に笑えていたのに。
「……では、これで失礼します。本当にお世話になりました」
私は振り返らなかった。
振り返ってしまったら─きっと、蓮の顔を思い出してしまうから。
だから。
そのまま、一歩、外へ出た。
扉が閉まる音。
これでいい。
これが、護衛としての
そして……蓮を好きになってしまった私の、けじめ。