そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~


【side 創】





数日前──彩葉が神楽家を去った後。



桜庭彩葉は、護衛だ。

それ以上でも、それ以下でもない。


……本来は。



「あなた……」



背後から、梓の声がした。

俺は振り返らずに答えた。



「分かってる」


本当は、何を言われるかも分かっている。

だから先に言葉を塞いだだけだ。


玄関先に残る、かすかな気配。

もういないと分かっていても、視線がそちらへ向いてしまう。


──確かに護衛としては、失格だ。

それは、変えられない事実だ。


守られるべきの蓮は彩葉を庇って撃たれ、血を流した。

あれは、偶然じゃない。

必然だった。


だから最初から言っていた。

友達以上になるな、と。
情を持つな、と。


だが──


脳裏に浮かぶのは、ここ最近の蓮の表情。

彩葉が来てから、あいつは明らかに変わった。


必要以上に尖らなくなった。

笑わない人間じゃなかったんだと、思い出させるくらいに。


……皮肉なものだ。


息子を“守るため”に連れてきた護衛が、

息子に“人間らしさ”を教えてしまった。



「……困ったな」



感情を挟まない判断をしてきたはずだ。

それで、この世界を生き延びてきた。




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