そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~

♦︎私の知らない私の話






【side彩葉】





Aegis(イージス)本部のロビーは、いつもと変わらない。


無機質な床に響く足音。

任務を終えた隊員たちが、淡々と行き交っている。



俯いたまま歩いていると、

視界が滲んで、床の線が歪んで見えた。



……っ。

こんなとこで、泣くわけには……。



奥歯を噛みしめて呼吸を整える。

胸の奥に込み上げてくるものを、無理やり押し戻した。


いつものように、感情を切り離せばいい。

そうやって生きてきた。

それが、私のやり方だった。


……でも。

脳裏に、さっき見た光景が何度も浮かんでは消えない。

その隣で、自然に笑っていた蓮。


…………新しい好きな人でも、できたのかな。



………会いたい、な。

そんな言葉が、心の底から勝手に湧き上がってきて。



「……っ」



喉が、詰まった。

こんな顔で仲間の横を通りたくなくて、思わず立ち止まる。

その瞬間。



「……彩葉?」



聞き慣れた声に、肩が跳ねた。

顔を上げると、少し驚いた顔の律が数歩先に立っていた。



「……どうしたの?」



心配そうに眉を寄せて、近づいてくる。




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