鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
 エレベーターで備品管理室のある階まで移動し、廊下の突き当たりを目指して歩く。途中には企画部の部屋があって、梢は思わずそちらへと視線を向けていた。

 そうすれば、あの人の姿が瞳に映り、自然と足が止まる。

「……部長だ」

 孝仁が誰かとなにやら話し込んでいる。その姿を見るとやはり胸が痛い。すぐにその場を去ろうとするが、梢の瞳はさらに見たくないものを映し込んでしまった。

 孝仁の向かいに立って、楽しそうに笑っている彩芽。孝仁に視線を移せば、彼もまた笑っている。

 梢に対してはまだ数える程度にしか見せてくれていない笑顔を彩芽には簡単に見せている。

「っ……」

 先ほどとは比べ物にならない胸の痛みに、思わず顔をしかめる。

(すごくお似合いだ。美男美女で、二人とも仕事ができて……婚約してたとしても、全然おかしくない。納得だよ。それに比べて私は……)

 ズンと気分が沈む。気晴らしになるはずが、さらに深く落ち込んでしまう。

「ダメだ。また暗い思考になってる。はあ、コンテストの企画もまったく考えられてないし、本当情けないなー」

 自分を卑下するような乾いた笑いが漏れ出る。このような有様では到底孝仁の隣に並び立つことはできない。その考えが、さらに梢を落ち込ませた。

 結局、備品補充を終えても、気分は上がらず、陰鬱とした気持ちのまま仕事をこなす。

 どうか早く定時になってほしい。家に帰って、暗い気持ちを吐き出したい。早く一人になりたい。

 そう願う梢だが、あの人が放っておいてはくれなかった。

「牧野、話がある。一緒に会議室まで来なさい」
「……はい」

 話というのは十中八九、ここ最近のミスに対する注意だろう。孝仁の期待に応えられていない自分が悔しくて、重いため息が漏れる。

 孝仁に直接叱られるのは身に応えるだろうなと思いつつも、いっそのことズバッと切り捨ててもらった方が踏ん切りがつくかもしれないとも思った。
< 109 / 118 >

この作品をシェア

pagetop