鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
「とはいえ、言いたくないものを無理に言わせるわけにもいかないからな。ならば、気分転換に貢献するか」
「気分転換……?」
「予定がなければ、また十九時にマンションの前まで来なさい。動物と触れ合えば、少しは心が慰められる」

 まさかの申し出に、梢は目を見開く。どうやらスイに会わせてくれるつもりのようだ。

 しかし、孝仁が彩芽と婚約しているとしたら、彼の家に上がるのは問題だ。

「それって……でも、私が行ったら、ご迷惑に……」
「前回、あれだけ張り切って来ておいて、今さらなにを言う。迷惑なら、最初から提案しない」

 言われてみれば、梢はすでに家の中まで入ってしまっている。孝仁が、婚約者のいる身で、別の女性を家に上げるような不誠実な人とは思えない。そう考えると、婚約の話は本当にただの噂なのかもしれない。

「……本当ですか?」
「本当だ。もちろん無理にとは言わないがな」

 今の言葉に嘘はないだろうが、彩芽の件がどうかまではわからない。

 ここで変に期待をしたら、後で傷つくことになるかもしれない。でも、どうせいつか傷つくなら、最後に孝仁とスイとの思い出を作るのも悪くない。

「……行ってもいいですか?」
「先ほどからそう言っている。十九時だ。忘れるなよ」
「……はい」

 梢の中にはまだ迷いがあったものの、その迷いはスイに会うためという言い訳を利用して、打ち消した。
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