鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
「部長、おはようございます!」

 永山は能天気に挨拶をしているが、この状況で同じように挨拶をする勇気はない。梢はそっと顔を孝仁とは反対の方へと背け、できる限り己の気配を断った。

「おはよう。随分と優雅に出社してきたようだな。営業部との打ち合わせの準備は済んでいるのか?」
「やばっ……ははは……すぐに準備しまーす」
「おい、永山。待ちなさい……はあ、逃げたか」

 鬼上司を相手に、よくいい加減な対応ができるものだ。ある意味で感心する。彼ほど図太く生きられたら、人生はもっと楽なのかもしれない。

 そう思いはしても、永山のようになりたいとは思わない。自分がいい加減な人間に見られるのはごめんだ。

 ただし、今この瞬間だけ、心臓を取り替えてほしいとは思う。そうでないと、視界の外から刺さる孝仁の視線に耐えられない。

(ああ、なんだか後頭部に視線が……いや、いやいや、気のせいだな。うん、気のせいだよ、気のせい。ちゃんと気配消してたし、部長に気づかれてるわけないって)

 ただの現実逃避だとわかっていても、その可能性にかけたくなる。どうしても今は孝仁と顔を合わせたくない。まだ心の準備ができていないのだ。

 梢はどうか気のせいであってくれと心の中で祈り続ける。だが、無情にも、その祈りが聞き届けられることはなかった。
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