女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します
第七十八話 二人を近づけろ!
それからしばらくの間、私達は影でちょっとずつ動いてみていた。ヤコブにはセドリックにロミーナの不遇な話をしてもらっている。セドリックは共通の趣味から仲が深まる。要するに自分と同じ共通点があれば良いわけだ。自分と同じで孤独な生活をしていると知れば、セドリックもその気になってくれるかもしれない。
私の任務はロミーナにセドリックの情報を流すことだ。あの後、昼食後にメロディとイザベラと一緒にいる頻度を減らし、ステファンに断られて一人で教室に戻ろうとするロミーナを引き留めて話をするようにした。
「そういえば、セドリック様の話を聞いたんですけど、ロミーナ嬢は知ってますか?」
「セドリック様の話ですカ?」
教室に戻るまでの道中、休憩時間の廊下にはまばらに人がおり、様々なクラスの生徒とすれ違った。親しい者同士が立ち止まって談笑したり、購買へ向かう生徒たちが楽しそうに連れ立ったりと賑やかなざわめきが満ちている。私たちもその流れに沿って歩きながら、ロミーナと話していた。
「はい。アレクサンド様から聞いたんですけどね、幼少期に凄く苦労したんですって。危うく死ぬような所だったとか」
「えっ⁉」
さすがにそこまでの話だとは思わなかったのか、不思議そうにしていたロミーナは目を丸くして驚いていた。そんな彼女の手をぎゅっと握り締め、私は彼女の目を真っすぐ見つめ返す。
「今、一番セドリック様と仲が良いのはロミーナ嬢だと思うんですよ。だから、優しくしてあげて下さいね」
私にそう言われて、ロミーナは何かにはっと気づくと、力強く頷いた。
「えエ。任せて下さイ!」
これで、ロミーナの方からもセドリックと仲良くしてくれそうだ。責任感が強い彼女には、そういうお願いをする方が聞くだろう。
実際それは上手くいったのか、翌日からはロミーナの方からセドリックに話しかけていた。その様子を見ると思わず口角が上がってしまう。向かいのテーブルの端に座るヤコブをちらりと見ると、彼は私の方を見てこくりと頷いていた。
ステファンに断られれば、ロミーナはセドリックに話しかけて一緒に学園内を見て回ったり、中庭のベンチに座って雑談をしているそうだ。まさかそこまでロミーナの方から積極的に話しかけてもらえるとは思わなかったのか、最初はセドリックも驚いていたが次第に慣れて嬉しそうにしていた。
メロディとステファンの方はと言うと、イザベラが頑張ってくれていた。この昼食の時間、基本的には淑女クラスで重点的に習うような体の動かし方やマナーを練習していた。ステファンが残って練習を見学していく時、思い切って練習内容をダンスにしてみたそうだ。男性役をステファンにお願いし、メロディとペアで踊ってもらう。そこをイザベラが指導していくというものだ。
「服装は制服だし、パーティ会場でもないんだけどね。ほんっとうに似合ってるの! やっぱりあのカップリング尊すぎるわ……」
誘導したイザベラ本人は、カップリングが見れて満足のようだ。そんなに言うなら私も見たいと、私も残った際にダンス練習をしてもらった。
イザベラが手を叩いてリズムを刻む。それに合わせて、ぴったり寄り添ったメロディとステファンが踊っている。すらりとした長い手足に、ガタイの良いステファンはメロディがどんなに姿勢を崩しても揺らぐことなく支えてくれた。メロディは長いストロベリーブロンドの髪を揺らしながら、真剣な顔で懸命に足を動かしている。レモン色の瞳は足元ばかり見ていて、全く視線は交差しない。それでもステファンはどこか満足そうだ。
「顔を上げて! 姿勢が悪い!」
イザベラにそう言われてメロディがはっと顔を上げた。ようやくダンスの相手がステファンだと言う実感が沸いてきたのだろう。彼女の顔はステファンを見つめるとみるみる赤くなっていった。
「あっ」
そちらに気を取られ、足がもつれてバランスを崩してしまう。倒れそうになった所をステファンがすかさず手をぐっと掴んで立て直してくれた。すれ違う視線に抱きしめているようなポーズ。美男美女が寄り添う様子は正しく眼福。ゲームのスチルには出て来なかったシーンなので特別感が凄い。
イザベラを見ると、顔が滅茶苦茶にやけていた。うん、貴女はこういうの好きよね。
「すみません」
「気にするな」
慌てるメロディをセドリックが慰めている。そんな二人の様子も初々しくて可愛らしい。微笑みながらその様子を観察していると、イザベラから急に声を掛けられた。
「そうだわ。せっかくいるんだし、リリアンナがお手本を見せて頂戴」
「え⁉ 私!?」
「ええ。メロディ嬢にはステファン様と組んでもらって、リリアンナの真似をしてもらうのよ。お相手は、貴女の従者でどう? モンリーズ家の従者は、教育が行き届いているそうだから」
思わず席を立ってしまう。イザベラはちらりと部屋の隅に控えているシヴァを見ていた。要するに、私とシヴァのカップリングも堪能したいと言う魂胆らしい。
観察されるのは恥ずかしいが、シヴァとダンスをするなんて久しぶりだ。拒否はしたくない。私もシヴァを見つめると、彼はぺこりと男性側の礼を披露した。
手を取り寄り添い合う。密着する体に、熱い体温。シヴァの整った顔がすぐ近くにあって、恥ずかしくなり視線を逸らす。それはそれで、こちらを見ているイザベラやメロディ達が見えて更に恥ずかしくなった。
「お嬢様、こちらを見て。周囲は気にしないようにしましょう」
「……シヴァは余裕そうね」
「そうでもないです」
二人でこそこそと小声で話しながら、イザベラの刻むリズムに合わせて体を動かす。やっぱり、シヴァはダンスが上手い。どの練習相手よりも、圧倒的に踊りやすさが違った。
「うわぁ……素敵」
メロディのそんな声が聞こえてくる。そうだ。実際、シヴァと私の踊るダンスは指摘することがないくらい美しいことだろう。シヴァと踊る時が一番、型を守りながら生き生きと踊れている気がする。ちらっとイザベラを見ると、何とも満足げな顔をしていた。今後機会があったら、絶対に彼女とアレクサンドで踊るよう誘導してやろう。
そんな日々を送り、だいぶメロディとステファン、ロミーナとセドリックの仲はそれぞれ深まってきたと思う。学園は中間試験の期間が近付いてきており、みんな勉強に熱が入ってきていた。
「ちょっと、大問題に気付いてしまったんだけど」
そんなある日、授業合間の休憩時間で、私とヤコブはイザベラに話しかけられた。
私の任務はロミーナにセドリックの情報を流すことだ。あの後、昼食後にメロディとイザベラと一緒にいる頻度を減らし、ステファンに断られて一人で教室に戻ろうとするロミーナを引き留めて話をするようにした。
「そういえば、セドリック様の話を聞いたんですけど、ロミーナ嬢は知ってますか?」
「セドリック様の話ですカ?」
教室に戻るまでの道中、休憩時間の廊下にはまばらに人がおり、様々なクラスの生徒とすれ違った。親しい者同士が立ち止まって談笑したり、購買へ向かう生徒たちが楽しそうに連れ立ったりと賑やかなざわめきが満ちている。私たちもその流れに沿って歩きながら、ロミーナと話していた。
「はい。アレクサンド様から聞いたんですけどね、幼少期に凄く苦労したんですって。危うく死ぬような所だったとか」
「えっ⁉」
さすがにそこまでの話だとは思わなかったのか、不思議そうにしていたロミーナは目を丸くして驚いていた。そんな彼女の手をぎゅっと握り締め、私は彼女の目を真っすぐ見つめ返す。
「今、一番セドリック様と仲が良いのはロミーナ嬢だと思うんですよ。だから、優しくしてあげて下さいね」
私にそう言われて、ロミーナは何かにはっと気づくと、力強く頷いた。
「えエ。任せて下さイ!」
これで、ロミーナの方からもセドリックと仲良くしてくれそうだ。責任感が強い彼女には、そういうお願いをする方が聞くだろう。
実際それは上手くいったのか、翌日からはロミーナの方からセドリックに話しかけていた。その様子を見ると思わず口角が上がってしまう。向かいのテーブルの端に座るヤコブをちらりと見ると、彼は私の方を見てこくりと頷いていた。
ステファンに断られれば、ロミーナはセドリックに話しかけて一緒に学園内を見て回ったり、中庭のベンチに座って雑談をしているそうだ。まさかそこまでロミーナの方から積極的に話しかけてもらえるとは思わなかったのか、最初はセドリックも驚いていたが次第に慣れて嬉しそうにしていた。
メロディとステファンの方はと言うと、イザベラが頑張ってくれていた。この昼食の時間、基本的には淑女クラスで重点的に習うような体の動かし方やマナーを練習していた。ステファンが残って練習を見学していく時、思い切って練習内容をダンスにしてみたそうだ。男性役をステファンにお願いし、メロディとペアで踊ってもらう。そこをイザベラが指導していくというものだ。
「服装は制服だし、パーティ会場でもないんだけどね。ほんっとうに似合ってるの! やっぱりあのカップリング尊すぎるわ……」
誘導したイザベラ本人は、カップリングが見れて満足のようだ。そんなに言うなら私も見たいと、私も残った際にダンス練習をしてもらった。
イザベラが手を叩いてリズムを刻む。それに合わせて、ぴったり寄り添ったメロディとステファンが踊っている。すらりとした長い手足に、ガタイの良いステファンはメロディがどんなに姿勢を崩しても揺らぐことなく支えてくれた。メロディは長いストロベリーブロンドの髪を揺らしながら、真剣な顔で懸命に足を動かしている。レモン色の瞳は足元ばかり見ていて、全く視線は交差しない。それでもステファンはどこか満足そうだ。
「顔を上げて! 姿勢が悪い!」
イザベラにそう言われてメロディがはっと顔を上げた。ようやくダンスの相手がステファンだと言う実感が沸いてきたのだろう。彼女の顔はステファンを見つめるとみるみる赤くなっていった。
「あっ」
そちらに気を取られ、足がもつれてバランスを崩してしまう。倒れそうになった所をステファンがすかさず手をぐっと掴んで立て直してくれた。すれ違う視線に抱きしめているようなポーズ。美男美女が寄り添う様子は正しく眼福。ゲームのスチルには出て来なかったシーンなので特別感が凄い。
イザベラを見ると、顔が滅茶苦茶にやけていた。うん、貴女はこういうの好きよね。
「すみません」
「気にするな」
慌てるメロディをセドリックが慰めている。そんな二人の様子も初々しくて可愛らしい。微笑みながらその様子を観察していると、イザベラから急に声を掛けられた。
「そうだわ。せっかくいるんだし、リリアンナがお手本を見せて頂戴」
「え⁉ 私!?」
「ええ。メロディ嬢にはステファン様と組んでもらって、リリアンナの真似をしてもらうのよ。お相手は、貴女の従者でどう? モンリーズ家の従者は、教育が行き届いているそうだから」
思わず席を立ってしまう。イザベラはちらりと部屋の隅に控えているシヴァを見ていた。要するに、私とシヴァのカップリングも堪能したいと言う魂胆らしい。
観察されるのは恥ずかしいが、シヴァとダンスをするなんて久しぶりだ。拒否はしたくない。私もシヴァを見つめると、彼はぺこりと男性側の礼を披露した。
手を取り寄り添い合う。密着する体に、熱い体温。シヴァの整った顔がすぐ近くにあって、恥ずかしくなり視線を逸らす。それはそれで、こちらを見ているイザベラやメロディ達が見えて更に恥ずかしくなった。
「お嬢様、こちらを見て。周囲は気にしないようにしましょう」
「……シヴァは余裕そうね」
「そうでもないです」
二人でこそこそと小声で話しながら、イザベラの刻むリズムに合わせて体を動かす。やっぱり、シヴァはダンスが上手い。どの練習相手よりも、圧倒的に踊りやすさが違った。
「うわぁ……素敵」
メロディのそんな声が聞こえてくる。そうだ。実際、シヴァと私の踊るダンスは指摘することがないくらい美しいことだろう。シヴァと踊る時が一番、型を守りながら生き生きと踊れている気がする。ちらっとイザベラを見ると、何とも満足げな顔をしていた。今後機会があったら、絶対に彼女とアレクサンドで踊るよう誘導してやろう。
そんな日々を送り、だいぶメロディとステファン、ロミーナとセドリックの仲はそれぞれ深まってきたと思う。学園は中間試験の期間が近付いてきており、みんな勉強に熱が入ってきていた。
「ちょっと、大問題に気付いてしまったんだけど」
そんなある日、授業合間の休憩時間で、私とヤコブはイザベラに話しかけられた。