女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します
第八十話 お忍びデート
シヴァに相談してから数日後。週末のお休みの日に、私はシヴァと一緒に街へ来ていた。本来であれば王妃教育のために王宮へ行く日なのだが、今日はお休みだ。
街中は週末の賑わいで活気に満ち溢れていた。石畳の通りには露店がひしめき合い、売り子の威勢のいい声と客の笑い声が飛び交っている。焼きたてのパンや香辛料の匂いが入り混じり、人々は忙しなく行き交っていた。
そんな空気に溶け込めるように、私はシヴァに変装魔法をかけてもらい、久しぶりに黒髪にピンク色の目の姿になっていた。お忍びのため、服装はちょっと良い所の商人風を目指し、質は良いが華美過ぎないものにしている。幾重にもレースのついた白いブラウスに、ワインレッドのロングスカート。スカートには白い花の刺繍が入っていて可愛らしい。同じくワインレッドの帽子を被り、髪は低い位置でのツインテールにしてある。
「二人は見つかった?」
「ああ」
シヴァはと言うと、商人の娘の護衛っぽく、腰に剣を下げている。髪と目は変装魔法で赤にしてあり、白い肌に鮮烈な赤が目を焼きそうになる。ワックスで髪を上げて、ピアスを付けた姿はワイルドで本当にかっこよかった。シンプルな生成りのシャツは腕まくりされ、筋張った前腕が露出している。いつもの黒い手袋は今日も付けており、黒いズボンと黒い革製の編み上げブーツと相性が良かった。赤い髪を髪紐でひとまとめにくくってあり、前開きのシャツから覗く鎖骨が何とも色っぽい。
「あそこにいるのがそうだろ」
そう言いながら、シヴァは通りの先を指さす。そこには、見慣れない姿のメロディとステファンが並んで歩いていた。二人共、身分を隠すために私達のように変装魔法を使用している。
メロディは貴族令嬢らしい華やかな新緑のワンピースを着ている。艶やかなストレートヘアは綺麗な金髪になっており、編み込みを入れてハーフアップになっていた。緑色で葉っぱの刺繍が入った白いリボンが良いアクセントになっている。彼女は鮮やかな青色の目で、興味深そうに周囲を見渡していた。
対するステファンも金髪に青い目になっており、見た目からしてメロディとは兄妹のように見える。銀色の刺繍が入った深緑色の上着とベストがよく似合っていた。彼はメロディと手を繋ぐことは無く、一定の距離を空けている。しかし、メロディを見る目はなんとも優しいものになっていた。
こうして私達がわざわざ変装魔法をかけて町へ繰り出したのには理由がある。
私とアレクサンドだけでなく、ステファンとロミーナの婚約関係までズレてしまうのに、アレクサンドに報告しないわけにはいかない。私はイザベラを連れて、先週の休日はアレクサンドと王宮で内密に話をしていた。
「……というわけで、ロミーナ嬢はステファン様と婚約解消するつもりのようです」
「なるほどね」
一通り話を聞いたアレクサンドは、顎に手を当てて何かを考えこんでいる。彼は同じソファにイザベラを座らせて、彼女の肩に頭を乗せていた。今この場には、私たち以外は誰もいないからこそなのだろう。イザベラはと言うと、顔を真っ赤にして固まっていた。アレクサンドへの手土産と思ってわざわざイザベラを連れてきたが、正解だったようだ。
「そこでなんですけど、アレクサンド様からもサポートして欲しくて。ステファン様とメロディ嬢が親しくなれるように」
「分かったよ」
答えは案外あっさりしたものだった。にっこりと微笑むと、彼は緊張して固く握りしめているイザベラの手を取る。
「あああああの、アレクサンド殿下?」
「ん?」
「距離、近すぎませんこと?」
「そうでもないと思うよ」
イザベラは声が裏返っているが、そんな彼女を見るのも楽しいのだろう。アレクサンドは良い笑顔をしていた。まあ、こうして想い人と触れ合える時間はあった方が良いと、イザベラのおかげでアレクサンドも思っているのだろう。悪いけど、犠牲になってくれてありがとうイザベラ。
「それで、せっかくでしたら変装魔法でもかけて二人でお忍びで出かける機会を作りたいんです。そういう指示を出せませんか?」
「それなら、最近ちょっと調べていることがあるからお願いしてみようか。ステファンの騎士としての強さと、メロディ嬢の魔力があれば、まあなんとかなるだろう」
「ちょっと! 二人して私を放置して話を進めないで下さいませ」
さすがに耐えきれなかったのか、イザベラが声を上げる。こういう時のため、私はとっておきのカードを用意していたのだ。
「ステファン×メロディのカプ、見たくないの?」
この一言で、イザベラは黙る。そうだ。彼女の中身である相羽優子はカップリング大好き人間。推しカプが見たくてゲームだってプレイしていたくらいなのだ。実際、そうなるようにメロディに肩入れするくらいなのだから、こう言われては黙るしかないだろう。
「……私もそのデートを観察できるのだったら、いいわよ」
言質は取った。どういう意味の話かは分からないようで不思議そうにしているアレクサンドも、イザベラの言葉を聞いて微笑んだ。
「ちょっと危険な任務になるかもしれないし、私とイザベラ嬢、リリアンナ嬢がこっそり後を付けて見張れば大丈夫だね」
「あ、私はシヴァと一緒に行動するので、別行動でお願いします」
「私をアレクサンド様と二人っきりにするつもり!?」
相変わらずイザベラが顔を真っ赤にしながら叫んでくるが、私は聞こえないふりをした。
街中は週末の賑わいで活気に満ち溢れていた。石畳の通りには露店がひしめき合い、売り子の威勢のいい声と客の笑い声が飛び交っている。焼きたてのパンや香辛料の匂いが入り混じり、人々は忙しなく行き交っていた。
そんな空気に溶け込めるように、私はシヴァに変装魔法をかけてもらい、久しぶりに黒髪にピンク色の目の姿になっていた。お忍びのため、服装はちょっと良い所の商人風を目指し、質は良いが華美過ぎないものにしている。幾重にもレースのついた白いブラウスに、ワインレッドのロングスカート。スカートには白い花の刺繍が入っていて可愛らしい。同じくワインレッドの帽子を被り、髪は低い位置でのツインテールにしてある。
「二人は見つかった?」
「ああ」
シヴァはと言うと、商人の娘の護衛っぽく、腰に剣を下げている。髪と目は変装魔法で赤にしてあり、白い肌に鮮烈な赤が目を焼きそうになる。ワックスで髪を上げて、ピアスを付けた姿はワイルドで本当にかっこよかった。シンプルな生成りのシャツは腕まくりされ、筋張った前腕が露出している。いつもの黒い手袋は今日も付けており、黒いズボンと黒い革製の編み上げブーツと相性が良かった。赤い髪を髪紐でひとまとめにくくってあり、前開きのシャツから覗く鎖骨が何とも色っぽい。
「あそこにいるのがそうだろ」
そう言いながら、シヴァは通りの先を指さす。そこには、見慣れない姿のメロディとステファンが並んで歩いていた。二人共、身分を隠すために私達のように変装魔法を使用している。
メロディは貴族令嬢らしい華やかな新緑のワンピースを着ている。艶やかなストレートヘアは綺麗な金髪になっており、編み込みを入れてハーフアップになっていた。緑色で葉っぱの刺繍が入った白いリボンが良いアクセントになっている。彼女は鮮やかな青色の目で、興味深そうに周囲を見渡していた。
対するステファンも金髪に青い目になっており、見た目からしてメロディとは兄妹のように見える。銀色の刺繍が入った深緑色の上着とベストがよく似合っていた。彼はメロディと手を繋ぐことは無く、一定の距離を空けている。しかし、メロディを見る目はなんとも優しいものになっていた。
こうして私達がわざわざ変装魔法をかけて町へ繰り出したのには理由がある。
私とアレクサンドだけでなく、ステファンとロミーナの婚約関係までズレてしまうのに、アレクサンドに報告しないわけにはいかない。私はイザベラを連れて、先週の休日はアレクサンドと王宮で内密に話をしていた。
「……というわけで、ロミーナ嬢はステファン様と婚約解消するつもりのようです」
「なるほどね」
一通り話を聞いたアレクサンドは、顎に手を当てて何かを考えこんでいる。彼は同じソファにイザベラを座らせて、彼女の肩に頭を乗せていた。今この場には、私たち以外は誰もいないからこそなのだろう。イザベラはと言うと、顔を真っ赤にして固まっていた。アレクサンドへの手土産と思ってわざわざイザベラを連れてきたが、正解だったようだ。
「そこでなんですけど、アレクサンド様からもサポートして欲しくて。ステファン様とメロディ嬢が親しくなれるように」
「分かったよ」
答えは案外あっさりしたものだった。にっこりと微笑むと、彼は緊張して固く握りしめているイザベラの手を取る。
「あああああの、アレクサンド殿下?」
「ん?」
「距離、近すぎませんこと?」
「そうでもないと思うよ」
イザベラは声が裏返っているが、そんな彼女を見るのも楽しいのだろう。アレクサンドは良い笑顔をしていた。まあ、こうして想い人と触れ合える時間はあった方が良いと、イザベラのおかげでアレクサンドも思っているのだろう。悪いけど、犠牲になってくれてありがとうイザベラ。
「それで、せっかくでしたら変装魔法でもかけて二人でお忍びで出かける機会を作りたいんです。そういう指示を出せませんか?」
「それなら、最近ちょっと調べていることがあるからお願いしてみようか。ステファンの騎士としての強さと、メロディ嬢の魔力があれば、まあなんとかなるだろう」
「ちょっと! 二人して私を放置して話を進めないで下さいませ」
さすがに耐えきれなかったのか、イザベラが声を上げる。こういう時のため、私はとっておきのカードを用意していたのだ。
「ステファン×メロディのカプ、見たくないの?」
この一言で、イザベラは黙る。そうだ。彼女の中身である相羽優子はカップリング大好き人間。推しカプが見たくてゲームだってプレイしていたくらいなのだ。実際、そうなるようにメロディに肩入れするくらいなのだから、こう言われては黙るしかないだろう。
「……私もそのデートを観察できるのだったら、いいわよ」
言質は取った。どういう意味の話かは分からないようで不思議そうにしているアレクサンドも、イザベラの言葉を聞いて微笑んだ。
「ちょっと危険な任務になるかもしれないし、私とイザベラ嬢、リリアンナ嬢がこっそり後を付けて見張れば大丈夫だね」
「あ、私はシヴァと一緒に行動するので、別行動でお願いします」
「私をアレクサンド様と二人っきりにするつもり!?」
相変わらずイザベラが顔を真っ赤にしながら叫んでくるが、私は聞こえないふりをした。