女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します

第八十一話 怪しい人達

 まあ、そんなことがあって私達はステファンとメロディに任務を依頼し、その二人を尾行していた。どこかにアレクサンドとイザベラも変装魔法を使って市民に紛れているのだろうが、私達にはまだ分からない。

 今回、アレクサンドからステファントメロディに依頼したのは、とある人物達の繋がりについての調査だ。せめてどこで密会しているのかくらいは知っておきたいらしい。
 その相手と言うのが、以前アレクサンドにも話した旧ソプレス王国の件。戦争賛成派による内乱が起こり、それにより国が滅んだという話だったはずだが、シヴァの旧友であり元騎士団長のヴォルフガングの話で、そうではないことが分かった。たった一晩で、目立った争いもないままに国王夫妻は殺され、国が崩壊してしまった。そんなことはおかしいし、聞いていた話と違う。それをアレクサンドに話して、調査してもらっていた所だった。
 その調査により判明したのは、どうやら国の崩壊を知らせてリヒハイム王国に助けを求めに来た元宰相。現在リヒハイム王国では男爵の地位を得たアルベリヒ・グラウベルが怪しいとのこと。
 時系列で考えても、旧ソプレス王国が危機に瀕する前日頃には、彼はリヒハイム王国を立っていたことになる。つまり、この男は旧ソプレス王国の崩壊を前から知っていたのだ。当時は国の合併や、あれた旧ソプレス王国の民衆の保護のごたごたで、あまり深く考えられてはいなかったらしい。当時の報告書をかき集めていて、はじめてアレクサンドもその事実を知った。
 もう一人怪しいのが、アルベリヒと親戚にあたるリヒハイム王国の侯爵ディトリヒ・ベルナルド。真っ先に旧ソプレス王国の王城に辿り着いていたのが、彼が率いるお抱えの軍隊だ。これも、時系列的にことが起こってから旧ソプレス王国に向かったのではありえない早さで到着している。本来ならば、近いはずのアマトリアン辺境伯が動くはずだったのに。しかも、当時彼はベルナルド伯爵だった。当時の功績により爵位を一つ上げている。

 アルベリヒとディトリヒ。この二人が親戚同士と言うのもきな臭い。二人で手を組み、旧ソプレス王国を崩壊させて、その手柄を得たのではというのがアレクサンドの予想だった。

「えっと、確か候補に挙がっているのがこの先のカフェよね」

 私はアレクサンドが調べておいた、二人の密会場所の候補が書かれた地図を見てみた。その候補地は十以上もあり、なかなか調べるのが大変らしい。
 見ていると、ステファンとメロディの二人が行く方向には、そのカフェがあった。二人は親し気に会話をしながら歩いていく。その後を私達もこっそりと追った。

 彼らには今回の調査の手伝いとしてお願いしてある。男女で行けば周囲の人間も安心して口を割りやすくなる。しかし、貴族が行くような店だ。アレクサンドや私では顔が知られているかもしれないし、ロミーナでは独特の訛りがあり調査には向かない。そのため、社交界でまだ顔が知られていないメロディを連れて、護衛として腕が立つステファンに依頼がしたいというのが、今回の言い訳だった。真面目な二人は、話を聞いてすぐに了承してくれた。

「オレ達も行くか。少し時間を置いて入れば、目立たないだろ」

 そう言いながら、シヴァが私の手を握ってくる。こんな大勢が行き交う場所を、明らかにカップルと言った格好で、手を繋いで歩くなんて子供の時以来かもしれない。いや、あの時だって別にシヴァと両想いと言うわけではなかった。胸を高鳴らせながら、私はシヴァと一緒にカフェへ向かった。
 ステファンとメロディがカフェに入っていったのが分かる。カフェの目の前にある花屋を見るふりをして、一度そこで少し時間を置いた。
 花屋は初夏の強い日差しを受けて活気に満ち溢れていた。軒先には、赤、白、黄色といった鮮やかな色の花々が、力強い色彩で存在を主張している。特に目を引くのは、庶民的で手に入れやすいゼラニウムの鉢植えや、明るいオレンジ色のマリーゴールド。その豊かな香りが、街の賑わいと混ざり合っていた。
 こんな尾行なんてはじめてだ。興味と緊張でソワソワしている私を気遣ってくれたのか、シヴァは近くにあった花を手に取る。それは、鮮やかな赤紫色の花穂を持つサルビアだった。その燃えるような色合いが、初夏の陽気によく映える。

「これ1つ」

「あら、彼女さんにプレゼント?」

 シヴァに声を掛けられ、女店主がにこやかに答える。その微笑ましい物を見る視線に耐え切れず、私は恥ずかしくなってシヴァの後ろに隠れた。

「まあ、そんなところです」

「いいわねぇ。彼女さんったら、照れちゃって」

 シヴァは女店主の視線を気にせず、私の髪にサルビアを差した。その花の色は、私が今着ているワインレッドのスカートと帽子によく似合っている。ふと見上げると、シヴァは満足げに微笑んでいた。顔に熱が集まっているのが分かる。こんな時に不謹慎かもしれないが、たまらなく嬉しい。

「ありがとう、シヴァ」

 私の言葉にうなずくと、シヴァはカフェの方を見た。もう時間はある程度経っただろうか。

「あそこのカフェに行きたいんですが、もしかして貴族の方もいらしたりしていますか?」

「ええ、たまに見かけるわね」

 シヴァの質問に、気前の良さそうな女店主はニコニコと答えてくれる。

「実は知り合いに貴族がいるんですけど、見たことありませんか? 深緑の髪に白髪が混じった、60くらいの男性なんですけど。あのカフェに行って来たって自慢してた親戚なんです」

 深緑の髪の男性は元宰相のアルベリヒのことだ。さりげなく嘘を交えながら、聞き込みをしてくれる。さすがシヴァ。優秀だ。

「さあ……さすがに一人一人覚えてはいないねぇ」

「そうなんですか。ありがとうございます。カフェの店名がうろ覚えだったので、確認したかっただけなので」

「まあ、良い店だよ。デート楽しんできな」

 女店主は明るい笑顔で手を振って見送ってくれる。その笑顔に安心しつつ、私とシヴァはカフェへと足を進めていった。
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