女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します
第八十七話 現状確認と情報共有
中間試験終了後。学園は休暇に入ったが、私達いつものメンバーは学園祭の準備もあり忙しい日々を送っていた。
シヴァが帰ってくるまで後一週間か二週間程。せっかくの休暇でいつもよりも自由時間が多いのに、シヴァと会うことも叶わず私はすっかり落ち込んでいた。お父様やバルバラが何かと気にかけて、私の好きな物を用意してくれても気分は変わらない。
彼は強い。頭も良いし、魔法も使えるし剣も使える。きっと大丈夫なのは分かっている。絶対に帰って来てくれるということも理解している。それでも、会えない寂しさは変わらないのだ。
「会えないのが、こんなに辛いと思わなかった……」
「あらあら」
王城でお茶会をしながら、気心の知れた友人たちに囲まれて私は不満をこぼした。
今日は学園祭準備のため、私とイザベラ、メロディとロミーナとマルグリータ。ステファンとヤコブとセドリック。いつもの昼食メンバー全員が王宮に集められている。先程まで学園祭の警護やら出入りの商人やらについて話し合ったり書類整理をしたりしていたが、今は合間の休憩時間だ。せっかくだからと男性陣と女性陣の二つのグループに分かれてテーブルを囲んでいた。
「私とはじめてお会いした時も、一緒にいた侍女ですよね? あんな昔から一緒にいた人がいなかったら、寂しいのも分かります」
そう頷いてくれたのはマルグリータだ。珍しく髪を高い位置でお団子に纏めている彼女は、鮮やかなグリーンのドレスに身を包んでいる。髪型のせいかいつもよりも明るい雰囲気に見えるが、笑顔は変わらず穏やかで天使のようだ。うっかり見惚れてしまう。
そんなマルグリータに癒されていると、隣で王宮のお菓子を頬張っていたメロディが顔を上げた。口の中の物を飲み込んだようだ。元々平民だった彼女は、王宮に着て行けるようなドレスを持っていなかったのだろう。いつもと変わらない制服姿だ。王宮で振舞われるお茶やお菓子の美味しさに、話すことも忘れて夢中になっていた。
「そんな昔馴染みがいないから、最近元気がなかったんですね。大丈夫ですよ! 私もイザベラ嬢も、皆さんもいますから!」
小さくガッツポーズをして励ましてくれる姿は可愛らしい。これもこれで癒しになる。
「慰めになるか分かりませんガ、愚痴や相談があればいくらでも話を聞きますかラ」
優雅に紅茶を嗜んでいたロミーナも、優しく微笑みながら言ってくれる。今日の彼女は髪を一房の三つ編みにして、サイドから垂らしていた。大人しい印象を与える髪型だが、首元が開いたドレスを着ているためか動くたびに耳元や項が見えるのが色っぽい。その仕草は洗練されていて、私もつい目で追ってしまう。
「まあ、みんなもいるからあまり落ち込まないでってことよ。あまり暗い顔されても困るわ」
私のすぐ隣に座ったイザベラは、励ますように言ってくれた。紺色を基調としたドレスに、同じく紺色のカチューシャを付けて髪を下ろしている。少しいつもよりも幼く見える彼女が軽くウインクをしてくれる姿はよく似合っている。隣の男性陣のテーブルから誰かさんの視線を感じた気がしたが、振り返らないことにした。
「イザベラ……! みんな……!」
すっかり友人になった彼女たちは本当に優しい。まだふとした時にシヴァのいない寂しさを思い出してしまうことはあるが、こういう時だけは気にせず楽しい時間を過ごすことができた。
話し合いが終わり、みんなは先に帰っていった。王妃教育という名目で私は王城に留まり、アレクサンドと話をしていた。
話の内容は私達の婚約解消の件と、それに必要であり現在調査中であるディトリヒとアルベリヒの不正に関してだ。この件のためにわざわざシヴァと離れたのだ。いくら彼が不在とはいえ、この話をしないわけにはいかない。
「率直に言うと、証拠はちゃんと集まっているよ」
一通り調べ、二人が裏で手を組んでいるだろうことや、その証拠や証言。それが旧ソプレス王国が滅亡する前から続いていたことや、彼らの不自然な行動の客観的証拠。それらはしっかり集まっていた。
後は、アルベリヒが事前に王城から逃げだしていた証拠や、ディトリヒが城を単独で攻撃していた証拠。それさえ集まれば、裁判で勝つことができ、彼らを戦犯として裁くことができる。そうすればリヒハイム王国に敵意があった元敵国ではなく、裏切りによって陥れられた王国となり旧ソプレス王国の名誉挽回になる。その上、賠償金と称して王国から正式に復興支援を受けることが可能だ。現在は元敵国と言うことで復興支援に積極的になれず、反対する意見が多い。しかし、裁判で勝てればそれも覆されるのだ。
名誉の回復と復興支援などの補助。これがあれば元々ソプレス王国出身だった者達の不満も癒え、もう反乱などのリスクは無くなるだろう。
旧ソプレス王国と所縁があった私と、アレクサンドが結婚する意味は消滅するのだ。そこではじめて、婚約解消ができる。
「リリアンナ嬢の支援もあるしね。このまま上手くいけば、私が卒業する頃には裁判も終わって婚約解消できるはずだ」
アレクサンドの言葉に、私はほっと胸を撫で下ろした。
「それなら良かったです。これで、お互いの望みは叶いますね」
「君は自由になり、私は晴れてイザベラ嬢を婚約者に迎えられる」
自信満々に頷くアレクサンドに、ふと気になって私は尋ねる。
「……あの、イザベラとは上手くいってるんですか? まあ、家のためにも婚約は拒まないと言ってくれてはいますが」
「……アプローチは続けるよ。まあ、別に結婚した後に好きになってもらったって、遅くはないから」
納得したようにそう呟くが、彼の表情はどこか寂しそうだった。
「そうだ。問題は君の方だよ」
「私?」
「婚約者がいなくなって自由になれば、別の結婚話だってどんどん入ってくるはずだ。その時君は、どうするんだい?」
なんとなく家にそのままいられて、シヴァと一緒に居られればいいと思っていた。でも、現実はそう簡単ではない。モンリーズ家のこと、結婚のこと、後継ぎのこと。今まで婚約解消についてだけ考えていて、その後に巻き起こるこれらをしっかりと考えたことなんてなかった。
それをはっきり指摘されてしまい、私は口ごもるしかなかった。
シヴァが帰ってくるまで後一週間か二週間程。せっかくの休暇でいつもよりも自由時間が多いのに、シヴァと会うことも叶わず私はすっかり落ち込んでいた。お父様やバルバラが何かと気にかけて、私の好きな物を用意してくれても気分は変わらない。
彼は強い。頭も良いし、魔法も使えるし剣も使える。きっと大丈夫なのは分かっている。絶対に帰って来てくれるということも理解している。それでも、会えない寂しさは変わらないのだ。
「会えないのが、こんなに辛いと思わなかった……」
「あらあら」
王城でお茶会をしながら、気心の知れた友人たちに囲まれて私は不満をこぼした。
今日は学園祭準備のため、私とイザベラ、メロディとロミーナとマルグリータ。ステファンとヤコブとセドリック。いつもの昼食メンバー全員が王宮に集められている。先程まで学園祭の警護やら出入りの商人やらについて話し合ったり書類整理をしたりしていたが、今は合間の休憩時間だ。せっかくだからと男性陣と女性陣の二つのグループに分かれてテーブルを囲んでいた。
「私とはじめてお会いした時も、一緒にいた侍女ですよね? あんな昔から一緒にいた人がいなかったら、寂しいのも分かります」
そう頷いてくれたのはマルグリータだ。珍しく髪を高い位置でお団子に纏めている彼女は、鮮やかなグリーンのドレスに身を包んでいる。髪型のせいかいつもよりも明るい雰囲気に見えるが、笑顔は変わらず穏やかで天使のようだ。うっかり見惚れてしまう。
そんなマルグリータに癒されていると、隣で王宮のお菓子を頬張っていたメロディが顔を上げた。口の中の物を飲み込んだようだ。元々平民だった彼女は、王宮に着て行けるようなドレスを持っていなかったのだろう。いつもと変わらない制服姿だ。王宮で振舞われるお茶やお菓子の美味しさに、話すことも忘れて夢中になっていた。
「そんな昔馴染みがいないから、最近元気がなかったんですね。大丈夫ですよ! 私もイザベラ嬢も、皆さんもいますから!」
小さくガッツポーズをして励ましてくれる姿は可愛らしい。これもこれで癒しになる。
「慰めになるか分かりませんガ、愚痴や相談があればいくらでも話を聞きますかラ」
優雅に紅茶を嗜んでいたロミーナも、優しく微笑みながら言ってくれる。今日の彼女は髪を一房の三つ編みにして、サイドから垂らしていた。大人しい印象を与える髪型だが、首元が開いたドレスを着ているためか動くたびに耳元や項が見えるのが色っぽい。その仕草は洗練されていて、私もつい目で追ってしまう。
「まあ、みんなもいるからあまり落ち込まないでってことよ。あまり暗い顔されても困るわ」
私のすぐ隣に座ったイザベラは、励ますように言ってくれた。紺色を基調としたドレスに、同じく紺色のカチューシャを付けて髪を下ろしている。少しいつもよりも幼く見える彼女が軽くウインクをしてくれる姿はよく似合っている。隣の男性陣のテーブルから誰かさんの視線を感じた気がしたが、振り返らないことにした。
「イザベラ……! みんな……!」
すっかり友人になった彼女たちは本当に優しい。まだふとした時にシヴァのいない寂しさを思い出してしまうことはあるが、こういう時だけは気にせず楽しい時間を過ごすことができた。
話し合いが終わり、みんなは先に帰っていった。王妃教育という名目で私は王城に留まり、アレクサンドと話をしていた。
話の内容は私達の婚約解消の件と、それに必要であり現在調査中であるディトリヒとアルベリヒの不正に関してだ。この件のためにわざわざシヴァと離れたのだ。いくら彼が不在とはいえ、この話をしないわけにはいかない。
「率直に言うと、証拠はちゃんと集まっているよ」
一通り調べ、二人が裏で手を組んでいるだろうことや、その証拠や証言。それが旧ソプレス王国が滅亡する前から続いていたことや、彼らの不自然な行動の客観的証拠。それらはしっかり集まっていた。
後は、アルベリヒが事前に王城から逃げだしていた証拠や、ディトリヒが城を単独で攻撃していた証拠。それさえ集まれば、裁判で勝つことができ、彼らを戦犯として裁くことができる。そうすればリヒハイム王国に敵意があった元敵国ではなく、裏切りによって陥れられた王国となり旧ソプレス王国の名誉挽回になる。その上、賠償金と称して王国から正式に復興支援を受けることが可能だ。現在は元敵国と言うことで復興支援に積極的になれず、反対する意見が多い。しかし、裁判で勝てればそれも覆されるのだ。
名誉の回復と復興支援などの補助。これがあれば元々ソプレス王国出身だった者達の不満も癒え、もう反乱などのリスクは無くなるだろう。
旧ソプレス王国と所縁があった私と、アレクサンドが結婚する意味は消滅するのだ。そこではじめて、婚約解消ができる。
「リリアンナ嬢の支援もあるしね。このまま上手くいけば、私が卒業する頃には裁判も終わって婚約解消できるはずだ」
アレクサンドの言葉に、私はほっと胸を撫で下ろした。
「それなら良かったです。これで、お互いの望みは叶いますね」
「君は自由になり、私は晴れてイザベラ嬢を婚約者に迎えられる」
自信満々に頷くアレクサンドに、ふと気になって私は尋ねる。
「……あの、イザベラとは上手くいってるんですか? まあ、家のためにも婚約は拒まないと言ってくれてはいますが」
「……アプローチは続けるよ。まあ、別に結婚した後に好きになってもらったって、遅くはないから」
納得したようにそう呟くが、彼の表情はどこか寂しそうだった。
「そうだ。問題は君の方だよ」
「私?」
「婚約者がいなくなって自由になれば、別の結婚話だってどんどん入ってくるはずだ。その時君は、どうするんだい?」
なんとなく家にそのままいられて、シヴァと一緒に居られればいいと思っていた。でも、現実はそう簡単ではない。モンリーズ家のこと、結婚のこと、後継ぎのこと。今まで婚約解消についてだけ考えていて、その後に巻き起こるこれらをしっかりと考えたことなんてなかった。
それをはっきり指摘されてしまい、私は口ごもるしかなかった。