女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します
第九十一話 手に入れた証拠
何を言っているのか分からないと眉を顰めるシヴァ。そんな彼の表情は気にせず、オスカーは再び懐を漁る。再び取り出したのは、一通の封筒だった。オスカーの目のように怪しく輝く真っ赤な蜜蝋で封がされている。
「これもどうぞ。私に会いたければ、封を開けて下さいねぇ」
シヴァの抱えた紙束の上に、オスカーは楽しそうに封筒を置く。
「おい、待て! オレはこんなの……」
「ではでは~」
オスカーは鼻歌を歌いながら足取り軽くシヴァとヴォルフガングから離れていく。
「おい、オスカー! お前何を……」
「次お会いする時は、貴女様と共に復讐できることを楽しみにお待ちしております」
ヴォルフガングの制止も空しく、オスカーは部屋の中央で再び恭しい礼をすると姿を消した。一部の者だけが使える転移魔法なのは明白だった。
オスカーの姿が無くなり、一気に緊張が解けた二人は床に座り込む。その拍子に、紙束の上に乗せられた封筒が床に落ちた。それを訝しげに見ながらヴォルフガングが大きな手でつまみ上げようとする。
「っつ!」
「ヴォルフガング!?」
指が封筒周辺を覆う何かに弾かれ、ヴォルフガングは軽く後ろにのけぞってしまった。その背をシヴァが軽く支える。姿勢を整えたヴォルフガングから手を離すと、シヴァは片手で恐る恐る封筒を摘まむ。シヴァの手は弾かれることなく、封筒を掴むことができた。
「……こりゃ、本当にお前さんしか招待しないつもりだな」
「こんな物、使う事なんてっ」
シヴァは封筒を破こうとするが、紙でできているはずのそれは皮のように固く厚くなり全く破くことができない。試しに護身用に持ってきていたナイフを懐から取り出して突き刺すが、傷1つつかなかった。あまりの丈夫さに、隣で見ていたヴォルフガングも感心したように顎髭を撫でつける。
「さすがオスカーだな」
「くそっ!」
「……待て。何かに使えるかもしれん。持っておけ」
勢いよく封筒を投げ捨てようとするシヴァの手を掴んで、ヴォルフガングは止める。シヴァはため息をつくと封筒を睨みつけた。もう諦めたのだろう。それでも不機嫌さを隠さず、雑にポケットの中に封筒を突っ込む。
「……で、この紙束だな」
「オスカーが持ってきたんだ。ワシらがいない間に、この城にきて証拠集めでもしていたんだろう。あいつがやりそうなことだ」
「復讐のためなら何でもやるだろうからな」
シヴァもオスカーとはそこそこの期間、寝食を共にしていたのだ。不気味な人物ではあるが、その性格や特性ならばなんとなく把握できる。長く共に王宮に勤めていたヴォルフガングは尚のことだ。
紐を解くと、ぱらぱらと軽く書類に目を通す。それらには確実に“ルベリヒ・グラウベル”と“ディトリヒ・ベルナルド”二人の名前があった。ヴォルフガングも確認できたのか、ふっとため息をついて書類を閉じる。
「えっと……シルヴィオ? シルヴィア? 名前が変わると言うのは面倒くさいな」
「今はどっちでもいいぞ」
「じゃあ、シルヴィオ」
ヴォルフガングは床に置かれた書類の束を片手で全て自分の所に引き寄せた。シヴァが手に持っていた一冊も、寄こすようにと手を差し出す。
「これは、お前さんは見ない方が良い。全てワシに渡せ」
「でも……」
「お前さんは、今の生活を壊したいのか?」
その一言で、シヴァの動きが止まった。驚いたように目を見開くシヴァの頭を、ヴォルフガングは優しく撫でつけた。
「オスカーは“事実を知れば復讐がしたくなる”と言っていた。きっと、そういう内容なんだろう。お前さんがそれを知って、本当に心から楽しく今の生活を送れるか?」
その言葉に、シヴァは返事ができなかった。リリアンナの待つモンリーズ家を思い出す。身内と思い、弟のように扱ってくれるルネ。我が子のように気にかけてくれるアードリアン公爵。仲間として最年少の自分を気遣ってくれる他の使用人達。自分を見送ってくれた人々の顔が思い浮かぶ。何よりも、自分を心から愛してくれているリリアンナを裏切るような真似は、自分にはできない。
「証人として裁判に出るのはワシだ。お前さんは今まで同様、身を隠し何も知らないまま過ごせ。それがいいと、ワシは思う」
「それは……父上や母上を裏切ることに、なる……のか?」
俯いたまま、シヴァはかすれた声を出した。彼自身、今大事な人達に気を取られ、すでに亡き両親を忘れたわけではない。
「そんなことはない。あのお二人さんなら、お前さんが楽しく暮らしていることを優先するだろうさ」
ヴォルフガングの笑顔を見て、シヴァはほっと息を吐いた。
「だから、これはワシに任せろ……リヒハイム王国に戻ったら、お前はまたただのモンリーズ家の住人だ」
シヴァの頭から手を離し、残った書類も回収すると、ヴォルフガングは紙束を抱えて再び紐でぐるぐると縛る。
「分かった」
シヴァはもう、ヴォルフガングを制止はしなかった。まだ微かに未練があるのか、紙束を見つめてはいるが決して手は出さない。縛り終えたヴォルフガングが立ち上がり、部屋を出ようとするのに続くためシヴァも立ち上がる。
「ありがとう、ヴォルフガング」
そう呟いた声は、ヴォルフガングに聞こえたのか否か。彼は何も言わずにドアを開けながらも、その口元は微笑んでいた。
「これもどうぞ。私に会いたければ、封を開けて下さいねぇ」
シヴァの抱えた紙束の上に、オスカーは楽しそうに封筒を置く。
「おい、待て! オレはこんなの……」
「ではでは~」
オスカーは鼻歌を歌いながら足取り軽くシヴァとヴォルフガングから離れていく。
「おい、オスカー! お前何を……」
「次お会いする時は、貴女様と共に復讐できることを楽しみにお待ちしております」
ヴォルフガングの制止も空しく、オスカーは部屋の中央で再び恭しい礼をすると姿を消した。一部の者だけが使える転移魔法なのは明白だった。
オスカーの姿が無くなり、一気に緊張が解けた二人は床に座り込む。その拍子に、紙束の上に乗せられた封筒が床に落ちた。それを訝しげに見ながらヴォルフガングが大きな手でつまみ上げようとする。
「っつ!」
「ヴォルフガング!?」
指が封筒周辺を覆う何かに弾かれ、ヴォルフガングは軽く後ろにのけぞってしまった。その背をシヴァが軽く支える。姿勢を整えたヴォルフガングから手を離すと、シヴァは片手で恐る恐る封筒を摘まむ。シヴァの手は弾かれることなく、封筒を掴むことができた。
「……こりゃ、本当にお前さんしか招待しないつもりだな」
「こんな物、使う事なんてっ」
シヴァは封筒を破こうとするが、紙でできているはずのそれは皮のように固く厚くなり全く破くことができない。試しに護身用に持ってきていたナイフを懐から取り出して突き刺すが、傷1つつかなかった。あまりの丈夫さに、隣で見ていたヴォルフガングも感心したように顎髭を撫でつける。
「さすがオスカーだな」
「くそっ!」
「……待て。何かに使えるかもしれん。持っておけ」
勢いよく封筒を投げ捨てようとするシヴァの手を掴んで、ヴォルフガングは止める。シヴァはため息をつくと封筒を睨みつけた。もう諦めたのだろう。それでも不機嫌さを隠さず、雑にポケットの中に封筒を突っ込む。
「……で、この紙束だな」
「オスカーが持ってきたんだ。ワシらがいない間に、この城にきて証拠集めでもしていたんだろう。あいつがやりそうなことだ」
「復讐のためなら何でもやるだろうからな」
シヴァもオスカーとはそこそこの期間、寝食を共にしていたのだ。不気味な人物ではあるが、その性格や特性ならばなんとなく把握できる。長く共に王宮に勤めていたヴォルフガングは尚のことだ。
紐を解くと、ぱらぱらと軽く書類に目を通す。それらには確実に“ルベリヒ・グラウベル”と“ディトリヒ・ベルナルド”二人の名前があった。ヴォルフガングも確認できたのか、ふっとため息をついて書類を閉じる。
「えっと……シルヴィオ? シルヴィア? 名前が変わると言うのは面倒くさいな」
「今はどっちでもいいぞ」
「じゃあ、シルヴィオ」
ヴォルフガングは床に置かれた書類の束を片手で全て自分の所に引き寄せた。シヴァが手に持っていた一冊も、寄こすようにと手を差し出す。
「これは、お前さんは見ない方が良い。全てワシに渡せ」
「でも……」
「お前さんは、今の生活を壊したいのか?」
その一言で、シヴァの動きが止まった。驚いたように目を見開くシヴァの頭を、ヴォルフガングは優しく撫でつけた。
「オスカーは“事実を知れば復讐がしたくなる”と言っていた。きっと、そういう内容なんだろう。お前さんがそれを知って、本当に心から楽しく今の生活を送れるか?」
その言葉に、シヴァは返事ができなかった。リリアンナの待つモンリーズ家を思い出す。身内と思い、弟のように扱ってくれるルネ。我が子のように気にかけてくれるアードリアン公爵。仲間として最年少の自分を気遣ってくれる他の使用人達。自分を見送ってくれた人々の顔が思い浮かぶ。何よりも、自分を心から愛してくれているリリアンナを裏切るような真似は、自分にはできない。
「証人として裁判に出るのはワシだ。お前さんは今まで同様、身を隠し何も知らないまま過ごせ。それがいいと、ワシは思う」
「それは……父上や母上を裏切ることに、なる……のか?」
俯いたまま、シヴァはかすれた声を出した。彼自身、今大事な人達に気を取られ、すでに亡き両親を忘れたわけではない。
「そんなことはない。あのお二人さんなら、お前さんが楽しく暮らしていることを優先するだろうさ」
ヴォルフガングの笑顔を見て、シヴァはほっと息を吐いた。
「だから、これはワシに任せろ……リヒハイム王国に戻ったら、お前はまたただのモンリーズ家の住人だ」
シヴァの頭から手を離し、残った書類も回収すると、ヴォルフガングは紙束を抱えて再び紐でぐるぐると縛る。
「分かった」
シヴァはもう、ヴォルフガングを制止はしなかった。まだ微かに未練があるのか、紙束を見つめてはいるが決して手は出さない。縛り終えたヴォルフガングが立ち上がり、部屋を出ようとするのに続くためシヴァも立ち上がる。
「ありがとう、ヴォルフガング」
そう呟いた声は、ヴォルフガングに聞こえたのか否か。彼は何も言わずにドアを開けながらも、その口元は微笑んでいた。