絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
「ギャスパー、このことは殿下には言わないで」
「でも……」
「迷惑かけたくないんだ」

 こんな状態で体調不良を訴えたら、アンリに呆れられてしまう。
 セレナは制服の上から胸元にそっと手をあてて、アンリがくれた水晶のネックレスの存在を確かめるように形を指でなぞった。
 あの日から言葉通り肌身離さず身に着けていた。学校では始終制服の中に隠れてその姿を目にすることはないが、寮の部屋ではきらきらと輝くそれを見つめては溢れる喜びを噛みしめていた。

 この水晶は、アンリの自分に対する友愛の証だと思っていたセレナにとって、今のアンリの自分への態度は辛くてしかたがない。

(これ以上、嫌われたくない……)

「お願いだよ」

 なおも異議を唱えるギャスパーを安心させるように、セレナは必死に笑顔を浮かべた。


 夕飯後に部屋に戻ったセレナとアンリは、いつものように順番にシャワーを使い寝る準備を進める。アンリの後にシャワーを終えると、アンリがベッドに座っていた。最近は、先にシャワーを終えたアンリが仕切りのカーテンを引いてさっさと就寝してしまうのが常だったため、セレナはドキリとする。

(ど、どうしよう……なにか声をかけた方がいいのかな……)

 薬を飲むために用意した水の入ったコップを片手に、逡巡しつつも言葉が浮かばずに視線をさまよわせながらセレナは勉強机の椅子に腰かける。
 昼間の胃痛は鳴りを潜めるどころか、酷くなるばかり。正直なところ一刻も早く薬を飲んで横になりたかったセレナは、机と机の間にある間仕切りに手をかけた。

「あの、カーテン閉めますね……、おやすみなさい」
「――なにか、俺に話しておきたいことはないか」
「え……」

 セレナはカーテンを引きかけた手を止める。真っ直ぐこちらを見るアンリと目が合い、心臓が跳ねた。気に障らないよう、セレナは考えるふりをしてアンリの瞳から天井へと視線を移した。

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