絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない


 数刻も経たないうちに、セレナは痛みにうなされていた。
 意識はあるのに、体が覚醒しない。痛みと息苦しさが、体を苦しめる。
 うんうんとうなされる自分を、どこか遠くで眺めている不思議な感覚だった。

『大変だ! 子どもが馬車に轢かれたぞ!』
『誰か、医者を呼んで来い!』

 視界が暗転したと思ったら、物々しい雰囲気の中にいた。切羽詰まった大人の声に、体がびくついた。すぐ近くで興奮した馬の嘶き。それをなだめる御者の声。集まりだす人々の悲痛な視線と声。

 今、自分がどこにいるのか、一瞬で理解する。

 そして、視界に入ったそれに息が止まる。

「っ……」

 すぐ目の前に横たわる、肢体。成長期を迎えていない、細くて小さな四肢がおかしな方向を向いている。そしてその下にじわじわと広がっていく真っ赤な海。

「おに……さま……」

 呼んでも、ピクリとも動かないそれに、セレナは地面が足元から崩れていく感覚にとらわれる。

「いや……、お兄さまっ……お兄さま! 目を覚まして! いやよ、いやっ! いやああぁぁぁっ!」

 目の前が、真っ暗になった。

『お嬢様が飛び出したんですって』
『それをかばった若さまが……』
『お可哀そうに……』

 ふと、後ろから馴染みのある声が聞こえて振り返る。
 いつの間にかセレナは自分の屋敷にいた。
 振り向いた先には、セレナが小さい頃から仕える使用人たち。セレナの姿など見えていないのか、声を潜めることもせずに話している。

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