嗚呼、愛しの婚約者様
 微笑み挨拶をすれば、彼女はなぜだか嬉しそうに「エレオノーラ様……!」と私の名を呼んだ。勉強が好きだと言うわりに、貴族の名を平民がそう簡単に呼んではならないという初歩的な常識すら知らないのかと呆れる。

「実は、貴女に話があって待っていたの」
 非常識を咎めるでもなく優しい声で告げると、彼女は急いで階段を下り、私の一段上に立った。
 ほぼ正面に立つ彼女に、なんて都合がいい子かしら、と初めて感謝する。

 どんな話が始まるのかと純粋な目をして待つ彼女に「マティアス様のことなのだけれど……」と呟くと、彼女は途端に表情を曇らせた。私という婚約者がいるマティアス様を籠絡していることを、少しくらいは気にしているのかしら。そう思いながら私は言葉を続ける。

「マティアス様は、貴女のことがとてもお好きみたいね」

< 12 / 42 >

この作品をシェア

pagetop