嗚呼、愛しの婚約者様
 頭の中で必死に問いかけても、彼の瞳は私を映さない。熱の篭もる瞳から、彼があの女に心酔しているのだと気が付くと、酷く胸が締め付けられた。

 最初からあの女をナイフで刺せばよかったんだわ。または金を払って誰かに殺させればよかった。金さえ払えば、誰だって口を噤み、事実を捻じ曲げてくれる。簡単なことなのに、わざわざ時間をかけて罪を着せようとしたのが間違いだった。

 また、失敗した。

 クソ……クソッ……クソッ!!
 汚い女め……!! 私の婚約者を奪っておいて、更には私から身分も家も奪おうと言うのか!!

 怒りから我を無くし、あの女に向かって罵詈雑言を浴びせる勢いで口を開いた。
 瞬間、群衆の中から、陽気でありながらも絶対的な信頼と統率力を兼ね備えていそうな、美しい声が響く。
「怪我を負った令嬢に、随分酷いことをするものだな」

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