嗚呼、愛しの婚約者様
 その声には聞き覚えがある。学園に入学してからは忙しいのかあまりお見かけしなかったが、幼少の頃より何度かお会いしたことのある、尊き方の声だ。
 声の方を向いて姿を確認すると、想像していた通りの方が、道を開ける生徒たちを横切り、優雅に靴を鳴らしてこちらへ歩いていた。

 この国の第一王子、ヴィルヘルム・ラウティオラ王太子殿下だ。

「マティアス、婚約者の言い分も聞かずに黒だと決め付けては可哀想ではないか」

 大丈夫か? と王太子殿下は優しい声で私に問いかける。久々に見る殿下は、美しい王族の中でも、まるで最高級の宝石のように輝いて見えた。金色の髪と赤い瞳は王家の血を受け継ぐ者全てに与えられる色なのに、その煌めきはまるで異次元だ。
 時が戻る前の断罪ではこの方の登場なんて無かったはずなのに、時期がズレたことと私の罪の内容が変わったことから、何か異変でも起こったのだろうか。

 思いもよらぬ王太子殿下の登場に私が思考を巡らせていると、殿下は実の兄の登場に衝撃を受けるマティアス様へ確認をした。
「マティアス、先ほどお前が得たと言った生徒の証言というのは『ユリアナ嬢がエレオノーラ嬢を突き飛ばしたところは見ていない』だったな?」

 その王太子殿下の声に、マティアス様は「はい……」と少し怪訝な表情を浮かべ答える。
 その返答に対し、殿下は「そうか」と返事をすると、妖しく目を細める。

「その証言では、ユリアナ嬢がエレオノーラ嬢を突き飛ばしていないという証明にはならないな」
「なっ……何を仰るのですか、兄上!!」

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