嗚呼、愛しの婚約者様

「お前は、婚約者であるエレオノーラ嬢には冷たく接してきたにも関わらず、ユリアナ嬢には優しく微笑みかけ、時には二人きりでの逢瀬もしていたそうじゃないか。婚約者でも無い女性に現を抜かすなど、一人の男として恥ずべき行為だとは思わないか?」

 静かになった講堂内で張り詰めた空気が流れる。
「……現を抜かしたつもりはありません。私は、優秀な生徒でありながらも平民という立場のユリアナを気に掛けていただけで……」
「それはお前個人の意見だ。周りの目はどうだ?」
 目を逸らしたマティアス様に、殿下が更に問いかける。その声には、分かりやすいほどの怒りの感情が込められているように思える。

 何度も……何度も彼に問い質そうとした。
『なぜ、婚約者である私には、そのような優しい微笑みを向けてくれないの?』と。
 その度に私は『彼が私を見ないのは、卑劣な手で彼を魅了するあの女のせいだ』と思うことで、ユリアナに対する憎悪だけを膨らませ、彼を責める気持ちを抑え込んだ。

 けれど、貴族の常識に当て嵌めて考えてみれば、本来は有り得ないことだ。婚約者である女性を蔑ろにして、別の女性、それも平民の女に愛想を振り撒くなど。

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